満島ひかりと小泉今日子、涙のぶつかり合い 『監獄のお姫さま』第8話の名演技を読む

「好きだから、もう会いたくないの」

 面白い、面白いと見てきた火曜ドラマ『監獄のお姫さま』(TBS系)だが、第8話はまさに圧巻だった。宮藤官九郎脚本ならではの小ネタ満載の演出には今回も笑わせてもらったが、何よりも馬場カヨ(小泉今日子)と、先生(満島ひかり)の掛け合いが秀逸。セリフの重みと迫真の演技で胸がいっぱいになった。

 2015年、姫(夏帆)の冤罪を晴らそうと、財テク(菅野美穂)ら女囚仲間と復讐計画を立てていた馬場カヨ。だが、その計画内容も情報をしたためたノートの管理もすべてが雑で、すぐに先生の知るところとなる。問題行動の主犯格である馬場カヨは、懲罰房へ。ここからの馬場カヨと先生の対峙が素晴らしかった。

 無実の罪で監獄にいる姫を見て見ぬふりはできないと主張する馬場カヨ。「正しく生きるということは、法を犯さずひっそりと暮らすことですか? 真実から目をそらせて、野菜の値段に目を光らせて、一喜一憂することが更生なんですか? 雑魚にだっておばさんにだって正義はあるんです!」

 その主張を聞き、「どうかしてたわ」と、うつむく先生。それは、刑務官として必死に働いてきた先生の、いわば母性の嘆き。新人の部下に仕事を教えることも、受刑者たちを更生させることも、どこか子育てに似ている。そして自分の思ったようには育ってくれることの方が珍しい。ときに、子どもは悪意なく親を裏切ることもある。

 復讐という目標のためとはいえ、傍目から見れば資格取得に精を出し、問題行動が減った馬場カヨに対して、先生は自分の熱意が通じた喜び、ある種の子育ての手応えを感じていたのだろう。しかし、自分がそう思いたかっただけの空回り。本当は別の意図があったのだと知り、「疲れたのよ」と座り込んでしまったのだ。しかし、だからといって、そこで母性が枯れることはない。反発する子には、全力で受け止めて返すのが愛だ。

 そして、馬場カヨに諭す。「今だけよ。雑魚がいきがって正義とか言ってられるのも今だけ! 自分がかわいいの、結局。姫の冤罪を晴らすためって言いながら、どっか楽しんでんじゃん。暇つぶしじゃん、現実逃避じゃん。忘れるよ……娑婆に出たら。冷めるよ、我に返るよ。所詮は他人事だもん。自分がかわいい、自分が大事。みんなそう、あんたもそう! それが人間!」

 これほど真正面からぶつかり合うことがあるだろうか。先生の言葉の中には、失敗が目に見えている復讐計画で馬場カヨが悔しい思いをすることを、そして信じた仲間に復讐を忘れられて馬場カヨが傷つくことを、なんとか阻止したいという思いが透けて見えるようだ。

 更生(復讐)は「暇つぶしなんかじゃない」と強く心に誓う馬場カヨも、検事・長谷川(塚本高史)との恋には先生の言葉が脳裏をよぎる。「長谷川さんは、ここにいる私が好きなの。69番の私が好きなの。出たら冷めるの、忘れるの、我に返るの。それが人間」そして、仮釈放のときには「迎えに来ないで」と告げる。きっと復讐を実行したら、長谷川に迷惑がかかる。つまり、好きだからこそ、もう会えないのだ。

 そして今回のクライマックスともいえる、馬場カヨと先生の釈放前準備寮の共同生活。仮釈放が決まった馬場カヨと、釈前教育を担当する先生が1週間をふたりきりで過ごす。先生は「もう番号では呼びません」と、馬場カヨを“69番“ではなく“カヨさん“と呼び、ふたりで台所に立ち、不慣れなスマホ操作にワチャワチャする。なんでもない時間が育む愛情。血のつながらない家族感。年齢の逆転した擬似的な親子関係……。

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