アメリカの医療は本当に先進的なのか? 超ハイテク医療ドラマ『ピュア・ジーニアス』の問いかけ

現実とリンクする本作の医療技術

 先進医療はアメリカ社会のなかで、いま最も成長が著しいホットなトピックでもある。本作で描かれた、新技術と医療の融合から生まれる新しいシステムというのは、現実の医療でも実際に使われ始めている。

 インターネットを経由しクラウド上で管理される「電子カルテ」システムは、それを導入する病院全てが記録し閲覧でき、患者自身も、携帯アプリによって自分の診療情報や治療の状況、検査の時期をチェックすることができる。また、個人に合わせた体調管理プランの提案や、病院の医療スタッフとコミュニケーションができる機能も、すでに一部では実現化している。

 本作では、病院が開発した腕時計のようなものが登場していたが、これも「ウェアラブル・デバイス」と呼ばれている実在の機器だ。医療的な機能を持ったデバイスには、装着した人間の脈や体温を常に記録し、異常を感知すれば医療機関へと即座に自動報告する機能を持っているものがある。これも人命救助への大きな助けとなるシステムだ。

 日本でも、先進医療は多くの病院で行われているという。厚生労働省が定めるところでは、先進医療における診療などについては保険が適用されるが、「先進医療に係る」部分の費用については、「全額自己負担」とされている。治療内容や期間によっては高額な費用がかかることになるのだ。また、アメリカで難病を治療するには、さらに莫大な医療費がかかることになるだろう。本作の舞台となるバンカーヒル病院が本当に実在してくれたら…と思う視聴者も少なくないはずだ。

アメリカの医療は本当に先進的といえるのか

 近年、アメリカでは保険料の値上がりがひどく、職場などで保険に加入しておらず高額な保険料を支払うことができない市民は、簡単な手術を受けるだけでも破産のおそれがあるため、おいそれと病院に行けないという事態が頻発している。

 マイケル・ムーア監督がドキュメンタリー映画『シッコ』で映し出したのは、まさに「命を金で買う」ような、アメリカの医療の驚くべき現実だった。そこに登場する、建設現場での事故で指を二本切断してしまったある男性は、保険に加入していなかったため、医師に「薬指の接合は1万2千ドル(約135万円)、中指の接合には6万ドル(約675万円)」という高額な治療費を提示されたという。全て払えば指を接合し再び使えるようにできるが、払えないのなら、くっつける指を選べと言われ、ついにこの男性は、薬指だけを選ぶことにし、中指の方は接合しないままなのだという。本当にアメリカは先進国なのかと疑うような、ショッキングなエピソードである。世界で最も進んだ医療技術を持っているアメリカの病院は、実際には高額な医療保険に加入していないと治療を受けることさえもできず、受けられたとしても莫大な借金を背負い生活が破綻することになるのである。

 この状況は、日本においても対岸の火事ではない。日本の国民健康保険料も増加傾向にあり、経済格差が社会問題化しているなかで、保険料が全額負担となる自営業者や個人事業主、貧困にあえぐ家庭では支払えなくなっているケースが続出しているという。日本もアメリカ型の医療制度に近づきつつあるのだ。

 手厚い保険に加入できていないアメリカの市民にとって、医療は本当にシリアスな問題である。とくに本作で描かれるような手間のかかる先進医療ともなると、それはほとんど富裕層のためのものとなっているのが現実である。だから、本作のバンカーヒル病院は、そのような一部の人間のためでなく、アメリカの一般市民が必要な治療を受け、難病を乗り越えさせる理想的な場所として描かれている。健康な体で人生を過ごすことは、全ての市民の願いである。その気持ちや人生の重みには、貧富のような差などないという事実を、難病と闘う医師と患者たちの熱いドラマによって、本作は訴えているのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『ピュア・ジーニアス ハイテク医療の革命児』
12月3日(日)から独占配信スタート、以降毎週日曜日に1話ずつ追加配信予定
製作総指揮:ジェイソン・カティムズクリエイター:サラ・ケイティムズ
出演:オーガスタス・プリュー、ダーモット・マローニー、オデット・アナブル、レシュマ・シェティ、アーロン・ジェニングス
(c)2016 Universal Television LLC and CBS Studios Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.happyon.jp/pure-genius

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