『ジャスティス・リーグ』に見る、DC映画の路線変更は本当に良かったのか?

 『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の評判を受けて、ワーナーからザック・スナイダー監督への、演出の方向を転換する要請もあったのだろうが、ジョス・ウェドン監督の采配にも助けられ、たしかに本作『ジャスティス・リーグ』は、明快で見やすい作品になったように感じられる。いままでにないギャグの連続や、ヒーロー同士の仲の良い雰囲気をバランス良く見せていく姿勢も共感を呼びやすい。今後DCが、このようなマーベル作品の明るい雰囲気を踏襲していくのであれば、本作はその「路線変更」のはっきりとした分岐点となったといえそうだ。

 しかし、これで本当に良かったのだろうか…。今回の路線変更というのは、いわばDCの一部マーベル化といえるものである。ということは、いままでのダーク路線というのは過去の失敗とみなされ、段階的に消え去っていくおそれがあるのではないか。たしかにダーク路線は、現時点でマーベルほどの成功は収められてはいないかもしれないが、少なくともマーベルとの差別化は達成できていた。マーベルが和気あいあいとするなら、DCは陰鬱に悩み抜く。それでアメコミ映画は総体として大きな振れ幅を獲得していたのではないのか。

 人々の関心は移ろいやすく、現時点で盤石のように見えるマーベルだって、いつ飽きられ失墜するとも限らない。そのときにDCの独自性が効力を発揮するはずなのではないだろうか。DCとマーベルが同じような方向に進むことは、ヒーロー映画のブーム終焉を早めてしまう可能性がある。だがワーナーの経営陣は、そんな気の長いスケールで映画制作を考えてはいられなかった、というのが正直なところだろう。

 また、この路線変更により、今後のDC全体を統括する役割を果たす存在が誰になるのかということが、現時点で不透明になってしまったことは不安材料であろう。マーベルには、制作する作品をカバーしコントロールする、権限を持ったプロデューサーのケヴィン・ファイギがいる。対してDCでは、本作で実際に大きな働きをした4人のプロデューサーの一人であるチャールズ・ローヴェンによると、重要なキャスティングなど、大きな権限はやはりザック・スナイダー監督に与えられていたようだ。その作家性によって骨組みが組まれていたはずのDCでは、今回の監督離脱によって、その体制やパワーバランスが変化していく可能性がある。そのとき、矢面に立ってヴィジョンを打ち出す役目は誰が担っていくのだろうか。

 近年、ビジネス上の理由で、ハリウッド映画のさらなる大作傾向が進んでいる。マーベル映画や、ディズニーの統括する『スター・ウォーズ』シリーズでも、監督降板や再撮影などの話題が絶えないように、映画が大作になるに従って、監督への管理が強くなり、軋轢が生まれやすくなっている。ここで問題になってくるのは、我々が観ている作品が、会社のものなのか、有力なプロデューサーのものなのか、映画監督のものなのかということが判然としないという部分だ。そして本作もまた、そのような作品になっているように思われる。だがDCにおいては、ザック・スナイダーの作家性によって押さえつけられていた状況から、パティ・ジェンキンス監督をはじめとする新たな才能が活躍しやすくなる状況にシフトしていくという新たなる希望も、現時点では存在する。

 『ジャスティス・リーグ』によって、混乱した状況が露わになってしまったDC映画。その隙にマーベルがぶっちぎっていくのか、はたまた制作体制のゴタゴタに乗じて、ふたたび『ワンダーウーマン』のような成功がDCに訪れるのか。波乱含みのヒーロー映画の趨勢から目が離せなくなってきた。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ジャスティス・リーグ』
全国公開中
監督:ザック・スナイダー
出演:ベン・アフレック、ガル・ガドット、ジェイソン・モモア、エズラ・ミラー、レイ・フィッシャー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
公式サイト:http://www.justiceleague.jp

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