Blu-ray&DVDリリースを期に改めて考える、時代の流れが生んだ『ムーンライト』のアカデミー賞作品賞受賞
実は、第89回アカデミー賞で作品賞候補となった9作品にはいくつかの共通点が指摘できる。
1. 実話がベース、或いは、着想を得ている映画
『ムーンライト』、『ドリーム』、『ハクソー・リッジ』、『LION/ライオン~25年目のただいま』
『ムーンライト』の物語は、原案の戯曲を手掛けたタレル・アルヴィン・マクレイニーの半自伝的な経験が基になったとされている。アカデミー賞で実話がベースになった作品が候補となり、評価されることが近年の傾向になっている。例えば2010年代に入ってからでは、『英国王のスピーチ』(10)、『アルゴ』(12)、『それでも夜は明ける』(13)、『スポットライト 世紀のスクープ』(15)が作品賞に輝いていることからも、それは裏付けられる。
この点については諸説あるのだが、事実としてハリウッドでは、アメコミ原作の映画化作品や続編、過去の人気作品のリブート作品、リメイク作品が大量生産されているという現状がある。“実話”は「その事実を知っている人」が存在する点で、原作のある作品と同様に扱われていると論じる評者もいるのだ。つまり、映画化する作品のネタ不足に陥っているハリウッドにとって、恰好の素材となっているというわけなのである。
またアカデミー賞だけに言及すれば、実在の人物を演じることは、俳優部門の受賞で有利になるというジンクスもある。実例は数多あるが、エディ・レッドメインの『博士と彼女のセオリー』(14)や、メリル・ストリープの『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(11)の受賞が近年の好例といえる。
2. 下層社会の問題が作品の要素のひとつになっている映画
『ムーンライト』、『ドリーム』、『ハクソー・リッジ』、『LION/ライオン~25年目のただいま』、『フェンス』、『最後の追跡』、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
映画は<社会を映す鏡>として、アカデミー賞でもその時代、その時代を反映した映画が作品賞に選ばれてきたという歴史がある。例えば、ユダヤ人に対する排斥を初めて題材にした『紳士協定』(47)や、離婚家庭の増加を背景に家庭崩壊を描いた『クレイマー、クレイマー』(79)などはその好例。
昨今のアメリカ社会では、貧富の差に大きな隔たりがあるという問題がある。ニュースなどでもその実態が度々報道され、下層社会の困窮が叫ばれていることと、下層社会の問題が映画の中で描かれること、さらにはドナルド・トランプが大統領となったこととは決して無縁ではない。
『ムーンライト』で描かれているのは、まさにアメリカの下層社会でもがき苦しむ少年の成長と葛藤。ハリウッド映画で描かれる題材は、常にその時代の流れや社会の動向と密接に関係しているのである。