『ひよっこ』脚本家・岡田惠和は菅野美穂の人生をどう描いた? “乙女たち”それぞれの幸せの形

 『ひよっこ』(NHK総合)の脚本を担当する岡田惠和と女優の菅野美穂は、20年来、数々の作品で関わってきた。菅野は、前クール放送の『べっぴんさん』(NHK総合)に続き、異例の朝ドラ2作連続の出演となった。岡田はおそらく、どうしても菅野に川本世津子という役を演じて欲しかったのだろう。

 第23週のタイトルは、「乙女たちに花束を」。“乙女たち”には、一途に愛した恋人を失い“新しい私”に生まれ変わった富(白石加代子)、疎遠となっていた父の省吾(佐々木蔵之介)、祖母の鈴子(宮本信子)となくしたものを取り戻すことを誓った由香(島崎遥香)、鈴子からすずふり亭の新しい制服のデザインを考えるよう頼まれ、着実に“変わっていく”みね子(有村架純)が当てはまる。中でも、金銭トラブルにより窮地に追い込まれていたところを、みね子から救出され、あかね坂の一員として生まれ変わる世津子は、今週の中心人物である。

 世津子は時代を象徴する大女優でありながら、孤独な人生を歩んできた女性だ。世津子がみね子へ送った手紙に平仮名が多かったことが物語るように、幼少期は預けられた叔父夫婦の貧しい家計を支えるため、映画の撮影所での牛乳販売に勤しんだ。監督やスタッフ、俳優から可愛がられた彼女は、監督から映画出演に誘われる。そこから世津子は、スター街道を突き進むこととなるが、彼女が稼いだお金は叔父夫婦に使い込まれていた。5歳の時に両親が病気で亡くなっている世津子には頼る人がいない。

 そんな時、雨の日に現れたのが記憶を失くし、さ迷い歩くみね子の父、実(沢村一樹)だった。いけないことと知りながらも、2年半という月日を共に暮らし、やっと傍にいてくれる人を見つけた。しかし、そこにみね子と妻の美代子(木村佳乃)が訪れた。今、振り返れば「もう二度と会うことはないと思います」と自身の気持ちを押し殺し、凛とした態度で別れを告げた世津子は女優であり、一人泣き崩れた世津子は恋する女性であった。

 「幸せでいてもらわないと困るんです。じゃないと、お父ちゃんに起きてしまった悲しい出来事がなしになんない」。世津子を孤独から救出することは、みね子、そして谷田部家にとっても幸せへと繋がっていく。みね子が美代子に手紙で、世津子との事のいきさつを伝えたのにはその思いが込められている。

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