“爆音”上映が生み出す、圧倒的臨場感! “カナザワ映画祭2017 at YCAM”レポート

 地方都市で映画を上映することの意義

 筆者は、先述のオールナイトも含め、合計9本の映画をこの環境で鑑賞したのだが、ひと口に“爆音”とは言うものの、印象的なのは音の“大きさ”のみならず、細やかな生活音すら聞こえてくる、その全体としての“臨場感”であった。初見の映画はもちろん……というか、むしろ既に観たことのある映画だからこそ感じることのできる、音響の圧倒的な違い。筆者が観たなかでは、『トラ・トラ・トラ』の出撃シーン(モヤがかった映像とは対照的に、恐ろしくクリアな音響に度肝を抜かれた)、『この世界の片隅に』の爆撃シーン(通常の映画館でも驚いたが、爆音で体験するそれは、震え上がるほど怖かった)、そして『野火』の舞台となるフィリピンの島の環境音(草木の音や虫の声、そしてメラメラと燃え盛る炎の音)などが、とりわけ印象に残った。ちなみに、最終日の『野火』上映後には、塚本晋也監督による舞台挨拶も実施。かつて『鉄男』の爆音上映を体験したことがあるという監督だが、それとは趣の異なる繊細な音のバランスを意識した今回の音響設定を、「映画のテーマを理解していただいた上での爆音上映だったので非常に満足している」と、終始ご満悦の様子だった。

塚本晋也監督(『野火』上映後のトークショーの様子)

 さらに、もうひとつ付け加えるならば、映画祭の最終日となった8月6日は、今から72年前、山口の隣県である広島に原爆が投下された日でもあった。その日、上映されたのは、『この世界の片隅に』、『野火』、『シン・ゴジラ』の3本。とりわけ、今回の特集上映で最多の動員数を記録した『この世界の片隅に』の上映には、老若男女多くの人々が駆け付け、しかもその大半が初見であったのは、今回の映画祭が単に爆音上映を楽しむのみならず、地方都市で映画を上映することの意義(山口市にはシネコンはもちろん、通常営業している映画館が存在しない)を、改めて感じさせる体験であった。

 さて、来たる8月24日(木)から27日(日)にかけて開催される“YCAM爆音映画祭2017”では、現代アート界の寵児マシュー・バーニーが音楽家ジョナサン・ペプラーと共同制作した三幕構成、合計6時間にわたる映像オペラ作品『RIVER OF FOUNDAMENT』(日本初公開)をはじめ、『PARKS パークス』、『メッセージ』、『20センチュリー・ウーマン』、『エブリバディ・ウォンツ・サム‼ 世界はボクらの手の中に』といった、今回が初の爆音上映となる作品に加え、『ラ・ラ・ランド』、『デス・プルーフinグラインドハウス』など選りすぐりの作品がラインナップされている。

 ちなみに、“YCAM爆音映画祭”では毎年恒例となっている“爆音ライブ上映”(無声映画にミュージシャンが即興で音をつけるライブ。昨年は、ブルース・ビックフォードのクレイ・アニメーション作品にceroが音楽をつけた)は、今年は趣向を変え、音楽監修を務めたトクマルシューゴをはじめ、映画『PARKS パークス』に実際に出演したミュージシャンたちによる“「PARKS パークス」スペシャルライブYCAMバージョン”の披露が予定されている。

「同センターの“スタジオB”では、染谷将太、菊地凛子、金林剛、YCAMの共同制作となる新作インスタレーション展が開催中(〜9月24日まで)」

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。

■山口情報芸術センター
【YCAM爆音映画祭2017】
8月24日(金)〜27日
監修:樋口泰人(爆音映画祭・boid主宰)
主催:山口市、公益財団法人山口市文化振興財団
後援:在日アメリカ合衆国大使館、山口市教育委員会
助成:平成29年度 文化庁 文化芸術創造活用プラットフォーム形成事業
協賛:獺祭、コカ・コーラ ボトラーズジャパン
協力:Japan Society(N.Y)
技術協力:YCAM InterLab
企画制作:山口情報芸術センター[YCAM]
公式サイト:http://www.ycam.jp/cinema/2017/ycam-bakuon-film-festival/

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