日本のアニメは世界でどう評価? 『夜明け告げるルーのうた』アヌシー映画祭最高賞受賞から考察

 世界最大規模、最古の歴史を誇る、フランスの「アヌシー国際アニメーション映画祭」。このほど、湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』が、その長編部門最高賞となる「クリスタル賞」を受賞した。日本作品の長編部門最高賞は、1995年の高畑勲監督による『平成狸合戦ぽんぽこ』の受賞以来、22年ぶりの快挙である。また、片渕須直監督の『この世界の片隅に』が同部門の審査員賞を受賞しており、2017年は日本のアニメーション映画が海外で大きな注目を集める年になったといえるだろう。

 この結果に対して、疑問を感じる人もいるかもしれない。まず、「アニメ大国」といわれる日本の長編作品が、何故この長い間、長編最高賞の受賞を逃していたのか。そして、国内で客足が伸びず、ほとんどの劇場が早々に上映を打ち切った『夜明け告げるルーのうた』が、何故ここまで高い評価を得たのかという点である。ここでは、その謎を解明しつつ、同時に日本のアニメーション映画が世界で評価されるためのヒントを探っていきたい。

今までの受賞作品の傾向は

 アヌシー国際アニメーション映画祭は、もともとカンヌ国際映画祭から分かれたイベントであり、「アヌシーはアニメにとってのカンヌ」だと考えると分かりやすい。選考される作品も、アーティスティックな内容であったり、社会的意義のあるテーマを持つものが主となる。会場では世界最大規模のアニメーション見本市、“MIFA”も開催され、世界各国からバイヤーが集まる。賞を獲得し作品が知られるということは、海外での上映などへの大きなアピールになるのだ。

 短編、長編を合わせ、歴代の最高賞受賞者は多彩な顔ぶれである。チェコの巨匠ヤン・シュヴァンクマイエルや、『木を植えた男』で知られるカナダのフレデリック・バック、また『コララインとボタンの魔女』などのヘンリー・セリック、エキセントリックな絵柄と過激な内容が印象的なビル・プリンプトンらアメリカ人など、受賞者はやはりヨーロッパ、アメリカに多い。これは文化圏の事情でもあるだろう。

 日本でのこれまでの長編映画最高賞受賞作品は、宮崎駿監督の『紅の豚』、高畑勲監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』である。『紅の豚』は、ファシズムが台頭する時代のイタリアの飛行機乗りの精神を描くという、フランスの批評家の間で評価の高い、アメリカのジョン・フォード監督の描くような世界を下敷きにした内容であり、また『平成狸合戦ぽんぽこ』は対照的に、東洋的オリエンタリズムを強く感じさせる作品だ。

 この事実は、アジアを飛び越え西洋の文化圏で評価されるには、西洋的な文脈に沿う部分を持つか、または地域的な文化の特殊性を発揮する方向に向かうことで、受け入れられやすくなることを示しているように思える。それは、過去に短編部門最高賞に輝いた、加藤久仁生監督の『つみきのいえ』と、同賞を獲得した山村浩二監督の『頭山』の対照性とも同様である。海外の一般的な観客や、商業的な市場にとっては障害になり得る「日本的文脈」というのは、一部追い風となる場合もある。

 その意味では、審査員賞を受賞した『この世界の片隅に』も、社会的なテーマに加え、史実を基に、その時代、その場所でしか得られないはずの「経験」を与えるという特殊性を持っており、批評的な観点からは評価しやすい作品になっていたと分析できる。

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