過激なギャグアニメ『アニマルズ』のカタルシス

監督コンビ自らが演じる毒舌芸の面白さ

 監督と脚本は、ニューヨークの小さな広告代理店で働いていて出会ったという、フィル・マタリーズとマイク・ルチアーノのコンビだ。フィルはウェブコミックを描きながらコピーライターの仕事をしており、マイクはビデオの編集をやっていた。彼らが試験的にいくつか作った『アニマルズ』のエピソードは、ニューヨーク・テレビジョン・フェスティバルで好評を得て、プロデューサーのジェイ&マーク・デュプラス兄弟に拾い上げられた。ちなみにデュプラス兄弟は、ロサンゼルスのストリートに生きるトランスジェンダーの登場人物たちの人間ドラマを、全編スマートフォンで撮影したことで話題となった映画『タンジェリン』で製作総指揮を務めている。

 本作を生み出したコンビの名前、「フィル」と「マイク」が、『アニマルズ』の多くのエピソードでそのまま各動物のキャラクターにつけられているように、彼ら自身が仲良くキャラクターの声優も務め、アドリブや毒舌を多用した会話が作品の面白さの核となっている。フィルとマイクはおそらく、会社での勤務が終わると、バーなどで会社や世の中に対する愚痴を言い合っていたのだろう。このように会話の細かな内容が中心となる手法は、MTVのギャグアニメ『Beavis and Butt-Head』(ビーバス・アンド・バットヘッド)が、実際のミュージック・ビデオに向かって、リアルタイムで悪態をつきまくるというスタイルにも近い。

 通常、他人の悪態や愚痴というのは、ことに日本においては嫌われる傾向にある。しかし、本作におけるフィルとマイクの「ダベり芸」は、あまり嫌味を感じず、素直に楽しめるものとなっている。その背景には、政治・社会批判を下敷きにした、アメリカのしゃべり芸「スタンダップコメディ」という文化の洗練があるだろう。そこで必要になるのは、公正な庶民感覚と反骨精神、優れた知性と豊富な知識である。そこが、現在の日本とアメリカの「笑い」に求められる決定的な違いでもある。

過激表現の中に隠されたカタルシス

 フィルとマイクはなぜ、社会に対して不満をぶつけ、悪態をつき続けるのか。それは、彼らが実際には、むしろ純粋な存在であることを示しているのではないだろうか。『アニマルズ』が描いている通り、社会は、社会的弱者やマイノリティに対して不公平であり、悪徳と堕落に満ちている。本作で「人間」として登場する人物は、あらゆる悪徳に踏み込み、殺人を犯しながらニューヨーク市長への階段を登ろうとする。彼は、そのような汚濁に満ちた社会の象徴となっている。そういう現実を誤魔化すかのように、汚いことを意図的に無視した、ただポジティヴなだけの表現が、世の中にはあふれている。そういうときに我々は、「そうは言っても、現実はこんなにひどいじゃないか」と思ってしまう。明日を生きるためには、やさしく励まされるだけでは物足りないこともある。本作の「毒」は、ある意味「薬」にもなり得るはずである。

 また、そこにあるのは、近代的なアメリカ文学の手ごたえでもある。堕落した価値観と荒廃した社会によって、純粋な魂を持った主人公が反発するという構図は、アメリカ文学を代表する、エポックな名作青春小説、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』はもちろんのこと、70~80年代に活躍した、労働者階級出身のレイモンド・カーヴァーが書いた、小市民による社会への破壊的な怒り、また、80~90年代にニューヨークの風景や人間の実感を切り取ったポール・オースター、『レス・ザン・ゼロ』や『アメリカン・サイコ』などで時代の寵児となったブレット・イーストン・エリスのような、社会から逃げる、社会に抵抗をするという、一種のロック・ミュージックとも接続されるアナーキーな精神である。

 本作の主人公たちは、社会のマイノリティであったり、何らかの傷を抱えている異端的存在である。しかし実際は、社会の誰もが、何らかの意味で多かれ少なかれマイノリティである部分を持っているはずである。本作は、そのようなキャラクターの心の叫びを描く。本作における謎のカタルシスの正体とは、社会に立ち向かい、ときに敗れ去り消え去ってゆく、純粋さを秘めたマイノリティたちの生き様そのものである。それこそが本作をただの過激ギャグから、より奥に踏み込んだ領域に進ませている。本作『アニマルズ』は、純粋な魂を持ったマイノリティへの応援歌であり、多様性を尊重する姿勢への賛歌でもあるのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『アニマルズ』
Huluにて配信中(全10話、 毎週木曜新エピソード追加)
監督・脚本:フィル・マタリーズ、マイク・ルチアーノ
プロデューサー:ジェイ・デュプラス、マーク・デュプラス、ジェームズ・アップ、マイク・ルチアーノ、フィル・マタリーズ、ケニー・ミッカ、ジェン・ロスキンド
(c)Very Very Spicy, LLC
公式サイト:https://www.happyon.jp/animals-2016

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