平祐奈、奇跡のような笑顔ーー『ReLIFE リライフ』は爽やかな感銘を与える

 古澤健監督の3年ぶりの劇場公開作である。前作『クローバー』の武井咲の信じがたい可愛らしさをまだ鮮烈に覚えている。「こんな可愛らしい生き物が地上にいるのか……」と絶句して涙が出たほどである。女の子の可愛らしさを映画にみるとはどういうことか。何がそんなに感動させるのか。それをつくづく考えさせてくれる貴重な作家の一人が古澤健監督である。

 今作『ReLIFE リライフ』のヒロインに起用されたのは平裕奈だ。仲間たち5人と比べて頭ひとつ分くらい小さく、コロコロとまんまるいうえに声まで丸い。ちょっと金属性をおびて転がるように響く声は薬師丸ひろ子──『セーラー服と機関銃』(1981、相米慎二)の──を思い起こさせる。あの映画のヒロインと同じく、本作の平も17歳だ。

 17歳の映画は世界中に数限りなくある。『ReLIFE』はその中で、一見控えめながらも今の大人にこそ大切なことを親しくおしえてくれる得がたい作品となった。控えめというのは、作品全体のスタイルのことだ。楽しい映像と音のあそびをさりげなくここかしこに散りばめながらも、物語はあくまで淡々と平静に流れていく。薬をのんで10歳若返り、もういちど17歳をやりなおす、という突拍子もないストーリーにもかかわらず、秘密が明かされる時にも観客をビックリさせたりショックを与えたりしない。ふんわり静かに丁寧に、ゆっくり人生のいちばん大切なことをみつめる契機を与えてくれる。そんな映画だ。

 

 主人公は中川大志演じる27歳の求職中の青年。この映画は彼の〈成長物語〉だ。何ごとにも深く関わらず、「影うすくサラーッと過ぎてくれればいい」というのが彼のモットーで、それだけ聞くなら凡庸な処世術のように思えるけれどじっさいにはシリアスなわけがあって、映画はそれをあたかもごくささやかなエピソードのように回想シーンとして(三度)挿入する。深刻なつらいエピソードなのに、描き方が優しく距離をもって対象をとらえていて、それが中川演じる青年の優しい心持ちでもあるのだろう。

 映画は、27歳の彼がムサくるしい無精ひげで西日のあたるアパートの部屋にこもり、鬱屈としているシーンから始まる。再就職がうまくいかず、なんとなく思い描いていた「普通の」人生コース(一般企業に就職し、結婚し……)から外れた彼は、うまくいっている友人たちには実情を隠してとぼしいサイフで飲みにいったりする。その帰りの夜道、「リライフ」なる怪しい社会復帰プログラムの被験者となるよう促す謎の微笑をたたえた男に出会う。

 童顔にスーツ姿のその勧誘者(千葉雄大)が画面にすっと背中を見せて入ってくる時、坂道の多い魅力的な街の夜空にさりげなく不穏な夜間飛行のジェット機の轟音が響く。人形のように小さく整った顔の印象をこわさないよう表情はあくまで固く、抑揚のないセリフを発する千葉の演技に比して中川はオーバーアクションともいえる仕方でリアクションをつづける。中川がこのあと出会うヒロインの平も、千葉に負けずに淡々と無表情に近い演技をつづけるため中川の幼さがむしろ最初は際立っていた。

 

 この映画は「音」の用い方が面白い。それをもっとも効果的に体現しているのが平裕奈の「笑い」だ。不器用な彼女は嬉しい時や楽しい時にも感情をおもてに出して笑うことができない。うっかりリライフの実験にはまって17歳に戻った中川の助言を受けて笑う練習をするが、「こうですか?」と彼女がやってみせる時──どうみてもチェシャ猫の笑いであり素晴らしい演技だ──に響く効果音には、声をあげて笑わざるをえない(筆者はこの映画を二度見たが、二度ともまったく同じように声をあげて笑った)。

 勉強はできても周囲に関心が持てず、友達のいない彼女は彼に恋をしながら少しずつ変わっていく。高校生活最後の夏休み、ようやくできた仲間5人と花火大会に参加する浴衣姿の彼女が、白い天気雨の中で振り返って見せた本物の笑顔は、映画史に燦然と輝く女性の──女優の──クロースアップとなった。それは必ずしも恋の相手に向けた笑顔というのではなく、ただこの瞬間、この場の出来事が嬉しいから、その嬉しさをわかちあいたいという他人に向けた純粋な笑顔だ。

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