怪獣映画はここまで“進化”したーー真正面から“戦い”を描く『キングコング:髑髏島の巨神』の革新性
オリジナルの『キング・コング』を下敷きにしながら、本作は、東宝で作られた『キングコング対ゴジラ』、『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』、『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』の娯楽部分を詰め込んだような印象を受ける。自らオタクであると公言する、1984年生まれのジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督は、自分の愛するサブカルチャーをそのまま本編の中に取り入れていると語り、人間が単身で巨大な存在に戦いを挑む『ワンダと巨像』や『メタルギア』シリーズなどのゲーム作品などからの影響を明らかにしている(ロバーツ監督は、『メタルギアソリッド』実写映画化作を監督するという噂もある)。さらに『新世紀エヴァンゲリオン』の戦闘シーンや敵キャラクター「使徒」の造形、『天空の城ラピュタ』や『もののけ姫』などジブリ作品のイメージなど、MP3プレイヤーにお気に入りの曲を詰め込んでシャッフル再生するような感覚で、既存の作品、とくに日本文化の要素を躊躇なく本作で再現しているのだ。その結果、『パシフィック・リム』同様、アメリカよりもむしろ日本の観客の方が、よりなじみ深い世界観になっているかもしれない。
様々な意味で童心が満たされ満足するようにできている本作。しかし、注意深く内容を見ていくと、それだけではないことも分かる。劇中で兵士たちがBGMを流しながら、軍用ヘリで島の土地を爆撃する描写があるが、これはベトナム戦争を描いた『地獄の黙示録』へのオマージュである。太平洋戦争の時代に髑髏島に墜落したアメリカ兵の生き残りを、ジョン・C・ライリーが演じているが、この役名ハンク・マーロウは、その『地獄の黙示録』の原作小説『闇の奥』に登場する、物語の語り部となる船乗りの名であり、トム・ヒドルストンの役名は、小説の作者コンラッドからとられている。つまり『闇の奥』が、本作の背景で重要な意味を担っていると考えられるのである。
『闇の奥』が描いていたテーマは、ヨーロッパ諸国がアフリカなどに行った植民地支配の暗部である。アフリカの物資を搾取する手引きをしていたヨーロッパの貿易会社員クルツは、白人でありながら、アフリカ奥地で現地の部族の王として崇められる。クルツに会うため、マーロウが船でコンゴ川を遡上していくというのが、小説の筋である。会社の意志に反して奥地に王国を作り上げたクルツの狂気というのは、自然を支配し利益をむさぼろうとする人間の終わりない欲望を示し、また同時にそのような価値観への屈折した反逆行為でもあるといえる。
このような対立を、そのまま絵として具現化しているのが、キングコングとサミュエル・L・ジャクソン演じる男の対峙なのであろう。だからこそあのシーンからは、ただならぬ情熱を感じるのだ。本作は、娯楽表現にただ徹しているように見えながら、人間の本質的な欲望を突き詰め、自然が人間を殺し、人間が自然を殺そうとする戦いを描くことで、人間と自然の衝突をめぐる、きわめて普遍的な文学的テーマを内包させるという、はなれ業を成し遂げていたといえる。怪獣バトルの連続で子どもを飽きさせず、そのシーン自体に厚みのあるテーマを盛り込み大人も満足させる。このようなつくりが、これからの怪獣映画のスタンダードになっていくのかもしれない。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『キングコング:髑髏島の巨神』
全国公開中
監督:ジョーダン・ボート=ロバーツ
出演:トム・ヒドルストン、ブリー・ラーソン、サミュエル・L・ジャクソン、MIYAVI、ジョン・C・ライリーほか
日本語版吹替キャスト:GACKT(ジェームズ・コンラッド役)、佐々木希(メイソン・ウィーバー役)、真壁刀義[新日本プロレス](レルス役)
配給:ワーナー・ブラザース映画
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公式サイト:www.kingkong-dokuro.jp