『ひるね姫』神山健治が挑んだ新しい表現方法 アニメにおける“光と影”の役割を考える

 アニメの画面上で光をどう捉えるか、という点ではキャラクターの塗りだけではなく、美術(背景)や撮影による効果も重要な役割を果たす。

 その点で絶対に忘れてはいけないのは、新海誠監督だ。『君の名は。』でついに、美術と撮影にクレジットされなくなったが、それまでは新海監督は美術や撮影に深くコミットし、それによって画面上に印象的に光を表現していた。

 新海作品の美術は、ハイライトや映り込みを強調して描く一方で、照り返しが壁面などにつくる——普通に撮影したら暗くつぶれてしまいそうな——微妙な影のグラデーションもまた強調して描き、その空間全体に光が散乱している感じを表現している。それはそのまま画面で切り取った場所の空間感の表現にもなっている。

 またカメラで撮影されたかのような画面といえば山田尚子監督の『聲の形』も印象的だった。山田尚子監督は、同作以前から、色収差(画面の端で被写体の色ズレが起きる現象)が出ている画面をよく作ってきた。色収差は本来なら性能の低いレンズによって起こる現象なのだが、トイカメラで撮影された写真を見ればわかるとおり独特の味があり、絵に過ぎないその空間が、あたかも実在しているかのような肌触りを画面に与えていた。

 

 絵でしかない画面をいかに現実のように感じてもらうか。それはアニメ表現のひとつの目標だ。

 そこにおいて「光」の果たす役割は大きい。それは「影をどう扱うか」と「光をどう表現するか」の2つのトピックにわけられる。

 『ひるね姫』のルックは、このふたつを組み合わせることで、シンプルだけどリッチな絵を作り出そうとしたところに特徴がある。そしてそれは観客にとってはスマホやデジカムなどのオート露出の映像と共通する“見慣れたもの”でもあった。だから、そこにリアリティが生まれるのだ。

 そんなところも『ひるね姫』の注目点である。

■藤津亮太
1968年生まれ。アニメ評論家。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ』(NTT出版)、『声優語』(一迅社)がある。アニメ!アニメ!にてアニメ時評「アニメの門V」を連載中。titterID:@fujitsuryota

■公開情報
『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』
2017年3月18日(土)全国ロードショー
原作・脚本・監督:神山健治
キャスト:高畑充希、満島真之介、古田新太、釘宮理恵、前野朋哉、高橋英樹、江口洋介ほか
音楽:下村陽子
キャラクター原案:森川聡子
作画監督:佐々木敦子、黄瀬和哉
制作:シグナル・エムディ
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 ひるね姫製作委員会
公式サイト:http://www.hirunehime.jp

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