BOMI「えいがのじかん」
BOMIが新作映画を語る新連載スタート 『ラ・ラ・ランド』はよくできたJ-POPに近い?
「すんなりと受け入れられない部分も結構ありました」
それと、ケヴィン・スペイシーが監督・脚本・主演を務めた『ビヨンド the シー ~夢見るように歌えば~』(2004年)も、『ラ・ラ・ランド』に近いジャズを扱った作品ですが、こちらは一見の価値あり。この作品はボビー・ダーリンというミュージシャンの半生を描いています。空想や妄想を盛り込みつつ、ミュージカル仕立てにもなっているのですが、主人公がどんどん壊れていっちゃうんです。名声を得れば得るほど自分の中で何かが壊れていって、子供の頃の自分が出てきて話しかけてきたり、過去の自分と格闘しはじめたりする。夢なのか現実なのかがだんだんわからなくなっていって、観ているこっちはどんどん引き込まれていく。何より説得力がスゴい。
アカデミー賞で楽曲賞を受賞して注目を集めている音楽に関しても、正直あまり記憶に残っていません。なぜでしょうか。昨年公開の『シング・ストリート』の曲は一度観ただけで未だにリフもメロディーも口ずさめるのですが、『ラ・ラ・ランド』はふわふわとしています。ふわふわこんな感じだったかな……という感じはあるんですが。「アカデミー賞を獲った楽曲に対してなんてこと言うんだ! お前の音楽だって1回聞いただけじゃ覚えられないよ!」と怒号が聞こえそうです。
あとこれは実際に人前に立つ仕事をしている立場としてなんですが、すんなりと受け入れられない部分も結構ありました。セブは売れないジャズピアニストなのに、全然惨めに見えなかった。音楽を仕事にしていて売れていないのであれば、実際はもっっっと惨めです。床を這いずり舐めるような気持ちにすらなることもあるくらいに惨めです。それはミアにも言えることで、劇場を借りて舞台をやっている時点である意味夢を叶えているとも言えるのに、お客さんが全然来なかったから、ディスられたのが耳に入ったから「実家に帰らせていただきます。諦めます」って、何だよそれ! 志甘くない? って。女優になるために大学を中退してLAに渡って、6年間オーディションを受けながらカフェでアルバイトをしていたわけじゃないですか。お客さん、必死で集めてあの人数しか来ないことってありますか? 出た、違和感。こういう小さな違和感の積み重ねなんです、多分わたしがチャゼルを苦手な理由は……。LAなんて女優になるために5年、10年下積みしている人もたくさんいるわけですから。オーディションに落ちて惨めな自分なんて当たり前だと思うんです。そこに惨めさを感じて、もう「んあぁっ!!」ってなって、“粘り勝ち”するしかないんです。表現を続けていくという自分の強い意志でしかそれは成立させられないんです。
その後もいろいろトントン拍子に進みすぎで、それはもう正に夢物語でした。これを音楽で成功してお金をバンバン稼いでいる人がレビューしたらもっと違うことを言うのかも知れません。わたしにはちょっと経験がないので分からないですが。
でも、ミュージカル部分への入り方はすごく面白かったですね。ミアがオーディションで独白していると、言葉が急に歌になっていくところは好きでした。とつとつと、なんていうかラップみたいでしたね。マジックアワーで撮られた丘の上のシーンもすごく綺麗でした。冒頭のハイウェイシーンは色合いとかがグザヴィエ・ドランの『わたしはロランス』に近い印象も受けました。
あとはエマ・ストーンに関して、ひとつ言わせてほしい。「わたしの大事な大事なエマを、なんでもっと可愛く撮ってくれなかったんだ!!!(怒)」。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』とか、それこそウディ・アレンの『マジック・イン・ムーンライト』のほうが全然チャーミングで魅力的に見えた。あの独特な浮遊感のある感じと、薄い肌感、鼻に抜けるようなハスキーボイスをもっと存分に活かしてほしかった。正攻法過ぎて、エマのチャーミングさを削っている感じがどうしても否めなかったというのがわたしの印象。『セッション』もやたら男子男子した感じでしたし、チャゼル監督ってあんまり女の子のこと好きじゃないのかな。いや、別に異性の趣味はどうであれいいのですが。
(取材・構成・撮影=宮川翔)
■BOMI(ボーミ)
シンガー。2012年6月に日本コロムビアよりミニアルバム『キーゼルバッファ』でメジャーデビュー。2015年にセカンド・アルバム『BORN IN THE U.S.A.』を発表。そして昨年12月にはTOKYO RECORDINGSプロデュースによる最新アルバム『A_B』をリリースした。モデルや女優としても活躍中。公式サイト/Twitter/Facebook
■公開情報
『ラ・ラ・ランド』
TOHOシネマズ みゆき座ほか全国公開中
監督・脚本:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、J・K・シモンズ
提供:ポニーキャニオン/ギャガ
配給:ギャガ/ポニーキャニオン
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Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.
公式サイト:http://gaga.ne.jp/lalaland/