松江哲明の“いま語りたい”一本 第14回

松江哲明の『沈黙―サイレンス―』評:見終わった後に意識が変わる、映画のパワーが詰まった傑作

 スコセッシの映画は、前作『ウルフ・オブ・ウォールストリート』や『カジノ』、『グッドフェローズ』など、僕が大好きなアッパー系作品がある一方で、『最後の誘惑』や『クンドゥン』など、宗教をテーマにした作品があります。そのどちらの要素も備えている作品として、あまりヒットはしなかったのですが、ニコライ・ケイジが主演を務めた『救命士』が挙げられるでしょう。今回の『沈黙』は、実は『救命士』との共通点が多い。主人公が「なぜ俺がこんな目に合うのか?」と苦悩する点や、主人公の行動によってひたすら周りの人間が死んでしまう点など、同じ構造です。いつか『救命士』との2本立て上映があったら、面白いと思いますよ。

 宗教的な意味に近い“祭り”感があったのも、『沈黙』という映画の非凡なところ。人間が社会を形成するうえで祭りはすごく重要で、この映画はそうした機能を備えている、いわば映画の持つ原始的な力を持った作品だと感じます。僕の場合、言ってみれば“映画”という宗教に入信しているわけですが、その教典となり得るほどの凄みが、この作品にはある。単純に映画としての出来がいいとか、面白いとか、そういった評価とは別に、この“祭り”は映画館で体験しないともったいない。『マッドマックス 怒りのデスロード』もそうでしたね。観客がワイワイするだけではなく、“儀式”として受け止めざるを得ないというか。そういう意味では『君の名は。』や『シン・ゴジラ』、旧作で言えば『七人の侍』は“フェス”でした。映画がもたらす“サービス”に観客が呼応して、高揚していったイメージ。『マッドマックス』もフェスっぽい作品といえますが、あの作品に“サービス”は一切なかった。『沈黙』も同じく。フェス映画は見終わった後に「うおおおおお」って高揚すると思うんですけれど、『マッドマックス』や『沈黙』の場合はそうならない。だけど、見終わった後に明らかに意識が変わっている。1年に1本あるかないかというレベルの、映画のパワーが詰まった傑作です。ぜひ、映画館で観てください。

(取材・構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』の監督を山下敦弘とともに務める。2017年1月6日より『山田孝之のカンヌ映画祭』がテレビ東京・テレビ大阪(毎週金曜 深0:52~1:23)にて放送予定。

■公開情報
『沈黙-サイレンス-』
全国上映中
原作:遠藤周作『沈黙』(新潮文庫刊)
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ
撮影:ロドリゴ・プリエト
美術:ダンテ・フェレッティ
編集:セルマ・スクーンメイカー
出演:アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ
配給:KADOKAWA
(c)2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://chinmoku.jp

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