『モアナと伝説の海』全米大ヒットの背景は“ロマンス抜き”にあり? ディズニーの作風変化を読む
女性主人公の姿を描くディズニーの長編アニメの基本的枠組みは、ヒロインが何らかの目標を達成する過程で魅力的な男性と出会い、恋に落ちるというものが多い。ディズニーは本作を除いて55本の長編アニメを製作してきたが、その中で人間の女性が主人公の作品は、『白雪姫』『シンデレラ』『ふしぎの国のアリス』『眠れる森の美女』『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『ポカホンタス』『ムーラン』『リロ・アンド・スティッチ』『プリンセスと魔法のキス』『塔の上のラプンツェル』『アナと雪の女王』の計12本(オムニバスは除く)である。この中でロマンスを描いていないのは、『ふしぎの国のアリス』と『リロ・アンド・スティッチ』だけだ。
つまり、ディズニー作品における女性主人公は、長らくロマンスとイコールの関係にあったのだ(『アナと雪の女王』では主人公エルサのロマンスは描かれなかったが、妹アナのロマンスが描かれた)。ディズニーにとって、ロマンスは不変的で伝統的なテーマだったのである。しかし、マスカー監督は今年のサンディエゴ・コミコンで本作のパネルディスカッションに出席すると、「この映画にロマンスはなく、彼女はマウイと恋に落ちない」と断言していた。実際、海外メディアによるレビューや紹介記事に目を通すと、本作は「ロマンスを全く描かないこと」でも賞賛の言葉を数多く受けている。ちなみに、「Moana no romance(モアナ ロマンスなし)」という言葉を含む本作に関連したツイッターの投稿を見てみても、そのほとんどが好意的な意見だった。
多様性の拡大とロマンスの排除という「ふたつの変化」によって、これまでのディズニー作品と明確に差別化された本作が、様々な意味で「変化」が求められているアメリカでヒットを飛ばしたのは、必然だったのかもしれない。今後、公開規模は日本を含めさらに拡大していく。アメリカでのヒットが前提としてあるため、本作がさらなる興行的成功を収めることは間違いないだろう。ただ、民族性が強い作品で留意すべきは、その民族性に直結している地域の観客のリアクションだ。果たして本作は、物語の舞台となったポリネシアでも、アメリカ同様に大ヒットを飛ばすのだろうか。その動向に注視したい。
■岸豊
映画を中心としたエンタメ全般についてゆる~く書いているフリーライターです。1991年4月9日生まれ。カーラ・デルヴィーニュとセス・ローゲンに会いたい。連絡はsabochiyasodayo(アットマーク)gmail.comかブログまで。
■公開情報
『モアナと伝説の海』
2017年3月10日(金) 全国ロードショー
監督:ロン・クレメンツ&ジョン・マスカー
製作:オスナット・シューラー
製作総指揮:ジョン・ラセター
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/moana.html