日本の映画産業は大きな転換期に? 『この世界の片隅に』iTunes登場が問いかけるもの
一方、観客だけではなく、製作者たちにとっても配信の導入は大きな変化を生むと土田氏は続ける。
「フィルムからデジタル・データへと移行したことにより、映画を劇場で上映するための交渉をしてくれる配給会社や宣伝会社を通さなくても、作り手は作品をデータ化して直接、映画館や配信会社、鑑賞者に届けることができる時代になりました。作り手自身が配給と宣伝を担うようになれば、コストを割いてまで既存の配給会社・宣伝会社を介する必要性を感じない人々が増えたとしても不思議ではありません。また、他の産業に比して、映画は製作から売上の回収までの期間が長いビジネスだと言われてきました。企画から製作に数年かけて、上映がさらに1年後で、テレビなどの放映やDVDなどのソフト化がさらに1年後といったように、製作費を回収できるまでには、基本的に数年を要したわけです。配信と公開が同時になされ、中間業者を介さないシステムになれば、当然、収益の構造やサイクルも変わります。映画に適しているものが何かは別として、製作面でも配給面でも、既存の映画産業の仕組みを見直す機会になるのでは」
映画館は昨今の技術進化のもと、35mmフィルムの上映からDCPデータでの上映へと、一足先に大きな変化を遂げた。今後は配給会社、宣伝会社、製作会社を巻き込み、映画産業自体が大きな転換期を迎えるのかもしれない。
(文=石井達也)