映画の“予告編”はどう作られる? 『ジェイソン・ボーン』制作担当者が語る裏事情

「見た人が違和感なく入り込めるような字幕を意識している」

 

ーー字幕は本編とは違うものが入っていますよね。これも瀧澤さんが入れているんですか?

瀧澤:本編は戸田奈津子さんが字幕を担当されていますが、予告編の字幕は私が入れました。予告編に字幕を入れる場合、映像内で使われているシーンの英文テキストが本国から送られてくることもあるのですが、公開タイミングなどの関係で、テキストをいただけない場合もあります。今回はテキストもなかったので、映像内で登場人物たちが話している内容を耳で聞き取り、それを翻訳する作業も必要でした。作品の情報がほとんどない状況で映像を読み解かなければいけないのです。

ーーなるほど。それはなかなか大変な作業ですね。

瀧澤:訳し方も直訳するのではなく、なるべく意訳するように心がけています。予告編は幅広い世代の方々に見られるので、子どもでもわかるように心がけています。また、限られた文字数の中で作品のテイストを崩さずに字幕を入れなければいけないので、その辺りのバランスも難しいですね。個人的に、字幕はパッと見てすぐ読めるほうがいいと思うので、なるべく1行に収まるようにしています。字幕に関しては、いかに短い日本語で伝えるかということが非常に重要なんです。

ーーご自身が作った予告編と映画の本編を比較するのも面白そうですね。

瀧澤:予告編の段階では映画の情報がまったくない場合もあるので、本編を観て、予告編のあのシーンはここで使われていたのかとか、こんな繋がり方をするのかとか、いろいろ発見がありますね。予告編で使われていた映像が本編では使われていないことも結構あるんですよ。邦画の場合は、特報映像を作らなければいけないタイミングだと、本編がまだ完成していないことが多くて、場合によっては、一切映像がないこともあるんです。そういう時は映像を使わずに、テロップだけで制作したり、特報用に映像を撮ってもらったり、場合によっては実際に現場に行って撮ることもあったりするので、予告編と本編を見比べるのはとても面白いと思います。

『ジェイソン・ボーン』海外トレーラーA

ーー予告編に対するリアクションは気になりますか?

瀧澤:SNSなどのリアクションはやっぱり気になってしまうので、よくチェックしていますね。もちろん批判もあります。これまで、「この翻訳おかしくない?」といったような字幕についての批判を目にすることが結構あったので、字幕に関しては特に細心の注意を払うようにしています。私自身、字幕の付け方のバリエーションを増やし、場面に応じて直訳にしたり、意訳にしたり、見た人が違和感なく入り込めるような字幕になるように心がけています。でも正直、賛否両論あっても、話題にしていただけるだけで嬉しいです。自分が作った予告編が世に出て、SNSなどで皆さんがその感想を発信しているのを目にすると、あまりの反響の大きさに驚くことも多々あります。個人的には、その予告編が劇場で流れているのをほかのお客さんたちと一緒に見たときに、この仕事の醍醐味を感じます。作るまではものすごく大変なんですけど、「楽しかったな」って思えるんですよね。

ーー今後、予告編の見方も変わってきそうです。

瀧澤:そう言っていただけるとありがたいです。予告編って、映画館で本編の上映が始まる前に流れているのを何気なく見ている方や、TVで流れているCMをながら見している方が多いと思うのですが、その予告編にもいろいろな情報が詰まっているんです。洋画だったら、制作者が1文字1文字試行錯誤しながら考えた字幕がつけられているので、「自分が入れるならこう入れるのに」と比べながら見ていただくのも楽しいと思いますし、邦画だったら、本編にないカットが使われている可能性もあるので、そういうところを楽しんでいただくこともできるんです。制作者の立場としては、予告編1つにも、1ヶ月や2ヶ月という時間をかけながら作っているので、ひとつの作品として楽しんでもらえたら嬉しいです。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『ジェイソン・ボーン』
公開中
監督:ポール・グリーングラス
脚本:ポール・グリーングラス、クリストファー・ラウズ
キャラクター原案:ロバート・ラドラム
出演:マット・デイモン、ジュリア・スタイルズ、アリシア・ヴィキャンデル、ヴァンサン・カッセル、トミー・リー・ジョーンズ
配給:東宝東和
(c)Universal Pictures
公式サイト:BOURNE.jp

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