脚本家・演出家/登米裕一の日常的演技論

北川景子、“柔らかくない”上司役が好まれる理由 若手脚本家が『家売るオンナ』の演技から考察

 “バランス力”や“調整力”、“空気を読む力”を持っている人は、一緒に仕事をするパートナーとしてとても助けになります。そうした能力を一言で表すと“柔らかさ”といえるかもしれません。けれど相反する“固さ”を持っている人とは仕事をしづらいかというと、そうではない気がします。

 ドラマ『家売るオンナ』(日本テレビ)で、北川景子さん演じる三軒家万智は軸がブレません。家を売る事こそが正義、という価値基準のもとに行動します。持っているこだわりが分かりやすいですよね。

 親や教師に対して不信感を覚えたきっかけとして、「怒っている理由に矛盾を感じたから」と答える子どもは多いです。「同じことをやっても叱られる人と叱られない人がいた」「今日は怒られたけど昨日は許された」「兄弟で扱いが違う気がする」といったことに子どもは戸惑います。それは大人でも一緒です。

 “バランス力”や“空気を読む力”がある上司は、タイミングを見計らうため敢えて叱る時もあれば、グッと我慢して許す時もあるでしょう。しかし、怒られた方は「今日は機嫌が悪かったから怒られたんだ」と、上司にブレを感じてしまったりもするんですよね。一方で、三軒家さんの“固い”態度には一貫性があって分かりやすく、融通が利かないところもありそうですが、信頼は厚いはずです。彼女みたいな上司の下で働きたいと答える人が、案外多い理由も頷けます。

 加えて、北川さんの演じ方がカラッとしていることも、三軒家さんの好感度を高めているところでしょう。芝居というものは“感情を込めること”を求められるのが基本ですが、思い切り感情を込めてねっとりと演じることが、すべてにおいて正解だという訳ではありません。

 俳優志望の若い役者と仕事をすると、彼・彼女らは一生懸命演じようとつい熱演し過ぎてしまうことがあります。たっぷりと感情を込めないと、仕事をした気にならないようです。でも、熱演で一番気持ち良くなっているのは、その俳優自身だったりもします。本当は、見ている人が気持ち良ければそれが正解であり、仕事に求められることだと思うんですよね。

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