80年代カルチャーを詰め込んだ『シング・ストリート』、個性溢れるファッションの魅力

 現在公開中の映画『シング・ストリート』が、80年代カルチャーを活き活きと再現していることで、話題を集めている。本作は、『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』のジョン・カーニー監督が新たに手がけた青春映画。1985年、歴史的な不況に突入したアイルランドのダブリンを舞台に、サエない日々を送っていた少年・コナーが一目惚れした女性を振り向かせるためにバンド活動をはじめる模様を描く。SNS上では「サイコーという言葉に尽きる」「傑作。何度でも観たい」「昔みて今でも大事に心にしまってある一本の映画をみたような幸福感」と、賞賛の声が相次いでいる。

『シング・ストリート』場面写真

 デュラン・デュラン、ザ・キュアー、ザ・クラッシュ、ザ・ジャム、ホール&オーツ、a-ha、スパンダー・バレエなど80年代ミュージックが使用されており、音楽を軸に物語が展開されていく。時代設定に基づいた素晴らしい音楽の数々に懐かしさ、あるいは新鮮さを覚える方も多いだろう。しかし、本作の見どころは音楽だけではない。80年代ファッションをふんだんに取り入れた“衣装”もまた面白いのだ。

 思春期特有の心の不安定さをファッションの変化でも表しており、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ演じる主人公のコナーは忙しなくビジュアルが変化していく。また、各々のキャラクターを表現するかのようにバンドメンバー全員が、私服や衣装では違うテイストの洋服に身を包んでいる。一方で、学生ということで同じ制服を着ているシーンも多い。統一感のある制服とのコントラストが、それぞれの個性をより際立たせているのだ。

『シング・ストリート』場面写真

 統一された制服は、“みんな同じでなければならない”という規則の息苦しさを象徴しているようだ。コナーが茶色の革靴で学校に登校し、校長先生に「靴は黒。校則で決まっている」と注意される場面がある。学校での絶対的な権力者である校長は、画一化をはかろうとするのだ。それに抗うようにコナーはどんどんヘアスタイルが変化していき、時には化粧を施して登校することも。思春期ならではの反抗心が、視覚からもわかりやすく伝わってくる。

 ルーシー・ボイントン演じるヒロインのラフィナは、冒頭は化粧が濃いため、実年齢よりもだいぶ上に見え、キツイ印象を与える。だが、コナーと出会いミュージック・ビデオの撮影を重ねるうち徐々に化粧が薄くなり、若々しい“女の子”になっていく。ファッションは一貫してパンツが多く、1980年代、女性の社会進出が本格化した当時を、セクシーだがパワフルなラフィナの服装で表現している。

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