「今の映画界では第二のショーケンさんは絶対に生まれない」——三浦友和『葛城事件』インタビュー

「親っていうのは、反面教師でいいんだ」

『葛城事件』場面写真

——『葛城事件』に話を戻すと、自分はこの作品を、日本の家長制度、父権社会が崩壊しきった、その惨状をすさまじい強度で描いた作品だと思ったんですけど、三浦さんはどのようにテーマを解釈されていますか?

三浦:自分は違う見方をしています。この主人公は古き良きとされるタイプの日本の父親像とはちょっと違っていて、本当に家族を愛していて、それゆえに理想を強く持ちすぎていたんだと思います。「俺はこんなに家族を愛しているのに」と常に思っている。

——あぁ、家長制度が既に崩壊している時代だからこそ、理想を強く持たざるを得なかったってことですね。

三浦:そう。だからこそ、家族への思い込みと押し付けが異常に強くなって、それがどれだけ家族にとって迷惑なものかに気づけない。昔の父親って、怖かったし、亭主関白だったけど、押し付けることはなかったですからね。

——威厳があったから、押し付ける必要もなかった?

三浦:そうです。だから、ここで描かれているのは、とても現代的な父親像だと思いましたね。

——すごく納得しました。三浦さん自身は、古いタイプの日本の父親像とも、本作で描かれているような父親像とも、また全然違うタイプの家長であるようにお見受けできるのですが。

三浦:自分の父親は警察官で、まさに古いタイプの日本の父親だったんですよ。今の社会からすると、本当につまらない、クズみたいな威厳を持っていた部分もあったし、わけのわからないことで怒ったりすることもあった。だから、自分にとってはそれが反面教師になったんですね。

——なるほど。

三浦:親っていうのは、反面教師でいいんだと。それは自分の子供に対しても思うところですね。だから、自分も子供に余計なことは言わないようにと、それだけは思ってましたね。ただ、自分の父親を否定したように聞こえたかもしれませんが、それはそれで家族というものが成立していた時代は確かにあったわけだから、そのこと自体を否定しちゃいけないと思います。時代に合わなくなったものがあれば、それは自分たちで変えていけばいいだけで、過去を否定する必要はないんですよ。

——ただ、本作の主人公にもそういう傾向がありますが、古いタイプの日本の成人男性って、飲食店とかで驚くほど横柄な態度だったりしますよね。昔はあれで許されていたのかもしれないけれど、ああいうのはちゃんと全否定していかないとと思います。

三浦:いやいや、それは古いタイプとか関係ないです。いつの世にも一定数、そういうヤツはいますよ。

——あぁ、おっしゃる通りですね。

三浦:今回の役を演じる上で、「こういうヤツっているよね」っていうのを結構参考にしましたからね。いますよ、今でも。さすがにその場で立ち上がって注意したりはしませんが(笑)。そういうヤツを見る度に、会社の中だったり、家庭の中だったりで、相当嫌われているんだろうなって思うだけですね。

——その集合体が今回の主人公(笑)。

三浦:そうですね。そうやって、客観的に周囲を見るような癖は昔からあって、それはこの仕事に役立っているように思います。

(取材・文=宇野維正/撮影=下屋敷和文)

『葛城事件』本編映像第二弾

■公開情報
『葛城事件』
新宿バルト9ほか全国ロードショー中
出演:三浦友和、南果歩、新井浩文、若葉竜也、田中麗奈
監督・脚本:赤堀雅秋
配給・宣伝:ファントム・フィルム
2016/日本/カラー/DCP/アメリカンビスタ/120分/PG12
(c)2016「葛城事件」製作委員会
公式サイト:katsuragi-jiken.com

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