「今の映画界では第二のショーケンさんは絶対に生まれない」——三浦友和『葛城事件』インタビュー

「濃い色を持っている監督と仕事をしたほうがおもしろい」

 

——昔はわがままを言うこともあった?

三浦:そりゃ、ありましたよ。20代の頃なんて言いたい放題でした。それに、70年代や80年代はそういうのが役者全体の中で流行ってたんですよ。ショーケン(萩原健一)さんとかが一番暴れていた時代ですから(笑)。

——そうですね(笑)。

三浦:あの当時は、そういうのがカッコいいとされていたんですよ。役者が言いたいことを言って現場を振り回す、そういうのがある種、ブームだったんですよ。男優だけじゃなくて、女優さんたちもわがまま放題だった。でも、今はそれだと通用しないですからね。

——でも、それは良い面と悪い面、両方あるようにも思うのですが?

三浦:そうです。だから、今の映画界では第二のショーケンさんは絶対に生まれない。いろいろ後になってから言われていますけど、ショーケンさんは天才でしたからね。「ああいう面倒くさい人は嫌だ」ってみんなが思うようになったことで、映画界で図抜けた人が生まれなくなってしまった。それは、マイナスの部分ですね。

——今回の『葛城事件』がまさにそうですが、今でこそ三浦さんはこうしてインディペンデント系の作品に出たり、そこで人間のダークサイドの部分を演じられたりしているわけですが、70年代は超メジャーな若手スターとして、品行方正なイメージが強かったですよね。そこには、ようやく役者として自分のやりたいようにやれるようになったという思いがあったりするのでしょうか?

三浦:自分が20代の頃は、言ってみれば、ショーケンさん、(松田)優作さん、原田芳雄さんの時代でしたからね。それは、そういう役者さんたちへの憧れはものすごくありました。自分が出ていた作品は、作品としてはメジャーだったかもしれませんが、文化としてはあの人たちこそがメジャーでしたから。そういう憧れを持ちつつ、自分は別のところで仕事をしてきて、30代、40代となっていって、仕事があまりうまくいかなくなってきたことで、ローバジェットの作品の依頼がきたわけですよ。相米慎二監督の『台風クラブ』のようなね。そのあたりから、「俳優の仕事って実はすごくおもしろいじゃん」ってようやく思いはじめたんですよ。それまでは「やりたくて始めた仕事じゃないけど、やるからには真面目にやろう」って気持ちでやってましたから。俳優の仕事に対して、誇りを持って心から「おもしろい」と思わせてくれたのは、相米さんでしたね。もちろん、この仕事は「メジャー作品に出て、次はインディペンデント作品に出て」って、好きなようにできるほど甘い世界じゃないですし、基本的には声をかけていただく立場なわけですけど、個人的に、できれば作家性の強い監督、その人の色が濃く出ている作品を作っている監督と仕事をしたいと思うようになったのはその頃からですね。さっきも言ったように、映画は監督のものだと自分は理解しているので。その監督の持っている色を自分が好きとか嫌いとかではなく、俳優としては、濃い色を持っている監督と仕事をしたほうがおもしろいというのがわかってきたんです。

——20代の頃にショーケンさん、優作さん、原田さんのような役者に抱えていた憧れについて、もう少し詳しく訊かせてください。

三浦:憧れというか、自分はそういう役者にはなれないと思ってました。でも、あの方たちが作品で表現していた社会へのフラストレーションのような気持ちは、自分はすごくよくわかったから、心の中で「仕事としては全然違う場所にいるけれど、気持ちは一緒なんだよね」って思ってました。

——三浦さんは三浦さんで、大きなフラストレーションを抱えていた。

三浦:そりゃそうですよ。清く正しく美しくみたいな役って、やってる方はつらいんですよ。同性から「なんだアイツ」って思われているのはわかってましたから。

——あぁ、同性から憧れられるかどうかって、きっと大きいんでしょうね。

三浦:でも、そんな20代の日々があったから、今があるんだと思います。これまでのすべてのことが布石になっていて、今の自分がある。それも、最近気づいたことなんですけどね。

——三浦さんの役者としての転換点という点では、多くに観客にとって決定的だったのは、やはり北野武監督の『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』だったように思います。

三浦:『その男、凶暴につき』の頃から北野監督の作品はずっと見てきていて、好きな作品も嫌いな作品もあるんですけど、自分はそうやってお金を払って北野武監督の作品を映画館に観に行って、ああでもないこうでもないと好き勝手なことを思ってるただのファンだったんですよ。「作品に出たい」というような期待を抱くこともまったくなかったから、声をかけていただいた時は本当にビックリしましたね。あまりにも驚いて、嬉しさがこみ上げてきたのはしばらく経ってからでした(笑)。

——キャストに三浦友和さんの名前を見つけた時に、その役がまったく想像できなくなったのは『アウトレイジ』以降です。

三浦:そうですか(笑)。

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