『園子温という生きもの』と『ひそひそ星』に見る、園子温監督の多面的な表現世界

『ひそひそ星』より

 それを動とすると、今回の『ひそひそ星』は静の究極である。30デシベル以上の音を立てると人間が死ぬ恐れがあるという設定のもと、全ての会話はひそひそ声。映画全体で音楽が流れる時間も圧倒的に少ない。静寂が続く…。生活音-蛇口から滴が落ちる、掃除する、背中をかく。風、波、虫、砂の音、缶のカラカラ音。一つ一つ鳴り響く音に耳を傾け、そこに音の重要性を感じる。声の消えた世界、音の消えた世界、人の消えた町…。終始モノクロの映像の中、一瞬だけ切り替わる草原の緑。消えた町の色…。それはまるで我々と自然の関係性を示すかのように、詩的に語りかける。

 この撮影は3.11の傷跡深い福島県で行われた。事故、災害、戦争…。「今日も常に死と隣り合わせに生きる全ての人間に対しての祈りの映画」だと言う。昭和レトロな内装の宇宙船に乗り、宇宙の中で滅びゆく絶滅種に認定されている人間たちに、アンドロイド鈴木洋子(神楽坂恵)が、大切な記憶の品物を送り届けていく。人間の暮らす『ひそひそ星』は、左右に連なる障子の向こうで影絵のように表現されている。音楽と共に、人間の営みが黒い影として静かに映し出される。表情は分からないが、動きによってその感情が表現された時、私はそこに人間の儚さを見た。広い宇宙に昭和レトロな畳の部屋が浮かぶ。それは地球に生きる、私たち人間の姿そのもの。機械と共存し、滅びゆく運命にある私たち。

 『ひそひそ星』は、切なく、やさしい。限りない表現力を持つ映画監督、園子温が描いた私たちの住むこの星は、今日もまだここに、こうして確かに存在している。

■大塚 シノブ
5年間中国在住の経験を持ち、中国の名門大学「中央戯劇学院」では舞台監督・演技も学ぶ。以来、中国・香港・シンガポール・日本各国で女優・モデルとして活動。日本人初として、中国ファッション誌表紙、香港化粧品キャラクター、シンガポールドラマ主演で抜擢。現在は芸能の他、アジア関連の活動なども行い、枠にとらわれない活動を目指す。
ブログ:https://otsukashinobu5.wordpress.com/
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■公開情報
『園子温という生きもの』
公開中
監督:大島新
出演:園子温、染谷将太、二階堂ふみ、田野邉尚人、安岡卓治、エリイ(Chim↑Pom)、神楽坂恵
企画・製作:ネツゲン、日活
配給:日活
2016/日本/カラー/ビスタ/97分
(c)2016「園子温という生きもの」製作委員会
公式サイト:http://sonosion-ikimono.jp/

■公開情報
『ひそひそ星』
公開中
出演:神楽坂恵、遠藤賢司、池田優斗、森康子
監督・脚本・プロデュース:園子温
プロデューサー:鈴木剛、園いづみ
企画・制作:シオンプロダクション
配給:日活
(c)SION PRODUCTION
公式サイト:http://hisohisoboshi.jp/

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