ハリウッドから愛された男、ケヴィン・ベーコンーーその真摯な俳優人生を辿る

ハリウッドから愛される男、K・ベーコン

 ちょっとした好奇心から、荒野に放置されていた一台のパトカーに乗り込んだ二人の家出少年。車の中にはキーが残っていて、バックシートにはショットガンや防弾チョッキが残されていた……ケヴィン・ベーコンが主演・製作総指揮を兼ねた新作『COP CAR コップ・カー』は、そんな導入部から始まるサスペンス映画だ。

 本作でベーコンが演じるのは、パトカーを10歳の子供たちに盗まれてしまった保安官。法の番人であるべき保安官が、実は極悪人で、子供たちが乗ったパトカーのトランクの中にはとんでもないものが隠されていた。

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 ともすれば、コメディにもなりかねない題材を、スリリングなサスペンス映画に仕立てあげたのは、優しい言葉で子供たちを誘導しつつ、容赦なく銃口を向けるという保安官を憎々しく演じた、ケヴィン・ベーコンの“卓越した二面性”の産物であろう。今回彼が演じた保安官は、70年代に量産されたカーアクション映画を彷彿させる、衝撃的なクライマックスまで、極悪非道の限りを尽くし続ける。

 ジョン・ランディス監督の出世作『アニマル・ハウス』(78)の端役で銀幕デビューを飾ったベーコン。与えられた役柄は、ジョン・ベルーシらと敵対するハウスの新入生の一人で、小さい役ながらも嫌味たっぷりのドヤ顔で、ベルーシ等をネチネチといたぶる姿が印象的だった。

 次に注目を浴びたのが、スラッシャー・ホラーの金字塔である『13日の金曜日』(80)。記念すべきシリーズ第一作で、ガールフレンドとベッドインした後、ベッドの下から矢じりで喉を突き刺されて絶命するという、トム・サヴィーニがデザインした、80年代当時としては画期的かつ印象的な手段で殺されてしまった。公開時の劇場では、観客が椅子から飛び上がるほどのインパクトの強さでホラーファンの心を掴み、『13日の金曜日』を代表する殺害方法として、血まみれのベーコンのスチール写真と共に今も根強く愛され続けている。

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 そんなベーコンが世界的にその名を知らしめることになったのが、公開当時“ストーリー付きのMTV”と称された『フットルース』(84)のレン・マコーミック役だろう。ロックとダンスが禁止という保守的な田舎町に転校してきた主人公レンが、周囲の大人たちを説得し卒業プロムを復活させるというシンプルなストーリーながら、サントラ収録曲が全て80年代を代表する名曲揃いな上、ベーコンの演じた信念を貫き通す、男気溢れる高校生(撮影当時はすでに24才だったが)という役柄に、全世界の若者が共感したのだ。

 『フットルース』の大ヒットをきっかけに、一気にスターの仲間入りを果たしたベーコンは、精力的に映画出演を続ける。実際は他のダンサーによる吹き替えだった事もあり、音楽映画とは縁が薄くなったが、『JFK』(91)のようなシリアスなドラマから、『ミスティック・リバー』(03)のようなサスペンス、透明人間を演じたことでその姿を殆ど見せることなく演じきった『インビジブル』(00)といったホラー、自ら製作総指揮も務め、どんでん返しの連続に観客を見事に騙し切った犯罪映画『ワイルドシングス』(98)、そして『トレマーズ』(90)のような軽いタッチのホラー・コメディまで、あらゆるジャンルに出演。その全ての作品に対して、決して手を抜くことなく、全力を尽くしている事が観客にも伝わってくる。柔軟な役柄の時は、とことん軟弱な男を演じ、悪役を演じる時は、瞳の奥から悪意が滲み出てくるのだ。

 その真摯な俳優活動が、観客だけでなくスタッフやキャストたちにも伝わり、愛されている事から、94年頃のアメリカで「六次の隔たりとベーコン数」という遊びが話題になった。ベーコンの共演者を辿っていくと、ハリウッドの俳優の殆どがケヴィン・ベーコンに繋がるというジョークから生まれた、たわいもない戯れだったが、その数(ベーコン・ナンバーと呼ばれる)は、調べてみると思いの外ハリウッドの俳優たちに繋がっていた事で一気にブレイクした。ちなみに日本でも名わき役として名高い、平泉成もかつての共演者繋がりで“ベーコン数”は2である。

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