『バットマン vs スーパーマン』賛否両論を巻き起こした要因は? DCコミックスの狙いと裏テーマを考察

 本作で描かれるように、スーパーマンの力は全世界に及んでいる。そして、ゾッド将軍のような、個人で都市を壊滅させられる強大な敵にすら対抗することができる。火事に巻き込まれた少女を助けることも、他国の要人を暗殺することも可能なのだ。スーパーマンを象徴するのは「力」そのものである。彼は都市を救ったことで英雄になっていたが、同時に、大規模戦闘によって多くの犠牲者を生んだことで恨まれてもいた。都市破壊に至るそもそもの原因も、スーパーマン自身にあるのだ。対してバットマンは、私費を投じて、個人で街の自警活動をする存在だ。スーパーマンの力の強大さを目の当たりにして以来、次第にスーパーマン脅威論にとらわれていくバットマンの保守的な「正義」は、暴走を始めていく。

 ここに登場するのが、スーパーマンの宿敵、大富豪・レックス・ルーサーだ。彼もブルース・ウェイン同様、スーパーマンの力を脅威に感じ、スーパーマンの行動を監視しながら、秘密裏に地位を剥奪するべく暗躍し、他国での虐殺事件にスーパーマンを関与させようとする。その巨大な財力によって、政府すら操ることもできる強大な権力を持つルーサーは、自分を超える新たな「力」が邪魔なのだ。そして周到な計画によって、スーパーマンとバットマンを同士討ちさせるシチュエーションをプロデュースする。

 この一連の流れは、同時多発テロ事件以後の現実のアメリカの姿の象徴でもある。強大な軍事力を持つアメリカは、「テロ事件と結びついているのはイラク政権であり、彼らは危険な大量破壊兵器を持っている」という情報により、イラクに攻め込んだ。だが、今ではその情報は誤りだったことが明らかになっている。テロ事件を中継で見たことで、兵士になることを決めたアメリカの若者は多いという。イラク戦争では、敵・味方ともに多数の死者を出したが、その戦いの根拠自体が「嘘」だったのだ。その責任は、もちろん迅速な報復を望んだ一部のアメリカ国民達にもある。しかし、一般のアメリカ国民自身も戦死のリスク、傷病のリスク、家族を失うリスクを支払っていることは確かだ。では、いったい誰が一番悪いのか。それは、戦争を始めることで利益を生む人間、具体的には、軍需産業を生業とする企業であり、利益を共有する議会や国防総省によってかたちづくられる「軍産複合体」である。アメリカの軍事力の源泉となるのは、国民一人ひとりだ。だがその「力」は、一部の人間の利益のために利用されてしまったのである。

 本作から感じられる凄みは、スーパーマンに代表される「力」や、バットマンの「正義」の心が、卑小な悪によって踏みにじられ、利用されてしまうという悲痛な姿を、ユーモアをほぼ排しリアリズムに徹して描くことで、アメリカの罪と悪を告発したところにあるだろう。だが、一度は失墜した正義も、堕落した力も、国民一人ひとりが学び、正しい方向に力を向けようとする心がある限り、それらは何度でも復活するのである。コミックの要素を散りばめながら、ここまで見事に痛烈で感動的なオリジナル脚本を作り上げたというのは見事だ。そして、ここまで知的に、そしてシリアスに脚本を構築しながら、クライマックスからは、ひたすら派手なパワーバトルが展開される。そのものすごい知的ギャップからくる、こちらの頭がおかしくなりそうな激烈な楽しさというのは、やはりDC映画のシリアス路線あってこそだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

 

■公開情報
『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』
3月25日(金)日米同時公開
監督:ザック・スナイダー
脚本:クリス・テリオ、デイビッド・S・ゴイヤー
製作:チャールズ・ローブン、デボラ・スナイダー
製作総指揮:クリストファー・ノーラン、エマ・トーマス、ウェスリー・カラー、ジェフ・ジョンズ、デイビッド・S・ゴイヤー
出演:ベン・アフレック、ヘンリー・カビル、エイミー・アダムス、ジェシー・アイゼンバーグ、ダイアン・レイン、ローレンス・フィッシュバーン、ジェレミー・アイアンズ、ホリー・ハンター、ガル・ガドット
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC
公式サイト:http://www.batmanvssuperman.jp

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