なぜ人々は“火星に取り残された男”を見捨てなかったのか 『オデッセイ』が描くアメリカ映画の精神

『オデッセイ』とアメリカ映画の精神

 巨匠、ジョン・フォード監督による、大陸横断鉄道を敷設し、東と西で生き別れになった主人公達が、鉄道事業完成とともに、アメリカの中央で出会う、感動の『アイアン・ホース』や、すべてを犠牲にして、ひとりの子供を守り抜こうとする善き男達の勇気を描いた『三人の名付け親』、そこから、リドリー・スコットの弟トニー・スコット監督の遺作となった『アンストッパブル』まで、連綿と続く、気のいい大らかなアメリカ映画のスピリットとカタルシスが、そこにあるのだ。

 本作で、多くの犠牲を払い、ワトニー救出に向かうクルーの一人はつぶやく。

「もし彼が俺の立場だとしても、そうしただろうさ」

 誰もが、自分が困難な目に遭ったとき、死の淵にあるときに、誰かに助けてもらいたいと思うだろう。そして、そういう社会であるべきだと願うだろう。ギスギスとした「自己責任論」でなく、一人の人間を、なんとしてでも死なせようとしないという社会のあたたかい意志を、それを見守る人々は確認したいのだ。そして、そのような社会であってくれたなら、人々は社会を、世界を、自分が貢献するに足るものなのだと思うことができる。

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 アメリカ映画は、国家や社会の悪を暴き出そうともするが、本作のように、あるべき理想を描くこともある。そして、ワトニーがディスコ・ミュージックに励まされたように、その底抜けの明るさは、観客にその日一日を生き抜くパワーを与えもするのだ。そして、本作が観客の動員を多く集めたという事実は、現代の人々にとって、今まさにその力が必要だということを示しているのかもしれない。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『オデッセイ』
2月5日(金) TOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
(c) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/odyssey/

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