“音痴な歌姫”はなぜ観客の心を揺さぶるのか セザール賞4部門受賞『偉大なるマルグリット』の魅力

『偉大なるマルグリット』

“マルグリット”という存在が投げかけるもの

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『偉大なるマルグリット』(c)2015 - FIDELITE FILMS - FRANCE 3 CINEMA - SIRENA FILM - SCOPE PICTURES - JOUROR CINEMA - CN5 PRODUCTIONS - GABRIEL INC.

 何よりも面白いのは、この映画が幾重にも形や輝き方を変えて、観る者の内側に光を差し込ませてくるところだろう。あらかじめ定められた音階を外して歌ってはいけないと誰が決めたのか? 耳心地の良いものの定義は誰が決めたのか? この映画を2時間見終わった時、マルグリットの歌声がどこか病みつきになって、自分もああやって音程を外した調子で歌いたくなってしまうのはなぜなのか?

 カトリーヌ・フロ演じるヒロインは、狂騒の時代にそぐわぬほどの赤子のような純真さで、健気に愛の歌を奏で続ける。最初から最後まで微塵も変わらぬそのまっすぐさ。そんな彼女をおだて上げて利用しようとする者がいる。笑い者にしようとする者がいる。彼女が持つ富の恩恵にあずかっている者たちもまた、その社会構造上、「あなた、音痴ですよ」と言えるはずもない。誰しもに非がある。しかし本作は、だからと言って誰かを糾弾したり、なにが素晴らしい価値観なのかを観客に押し付けることもない。彼女の人生こそオペラなのだと言わんばかりに、クライマックスへ向けて心を高揚させ、ただひたすら突き進んでいく。

 伝説の幕切れの瞬間、観客の心に刻まれるものは一体どんな風景なのか。すべてを喜劇として捉える人もいれば、悲劇として涙を拭う者もあるだろう。いずれにしても本作は痛烈かつ鮮烈な何かを残し、観客の琴線を震わせ、共鳴の渦を広げていく。上映後、劇場を一歩外に出ると、これまでとは全く世界が違って見えるはず。思わずこみ上げるあなたの鼻歌もまた、えらく調子っぱずれのメロディに仕上がっているかもしれない。きっとそれでいい。それでこそ人生。それでこそ、オペラ。

■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter

■公開情報
『偉大なるマルグリット』
シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開中
監督・脚本:グザヴィエ・ジャノリ
出演:カトリーヌ・フロ、アンドレ・マルコン、ミシェル・フォー、クリスタ・テレ
配給:キノフィルムズ
(c)2015 - FIDELITE FILMS - FRANCE 3 CINEMA - SIRENA FILM - SCOPE PICTURES - JOUROR CINEMA - CN5 PRODUCTIONS - GABRIEL INC.
公式サイト:www.grandemarguerite.com

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