たけし&西島共演『女が眠る時』が描く、“窃視”ミステリーの醍醐味 

 興味深いのは、この映画の登場人物たちの関係性が、よりミステリアスさを駆り立てることである。西島秀俊演じる作家の男が監視するのはビートたけしが演じる男。その監視されている男が監視するのは忽那汐里演じる少女。この三人が一方的に監視し合う構図だけが存在するのかと思わせておいて、作家の妻を演じる小山田サユリが演じているのは編集者の女であり、当然のごとく作家の男に新作を書かせるために監視をしているのである。作家がタバコを吸おうとするのを止めたり、プールサイドではカップルを見ようとする作家に対して帽子を手渡して、彼の行う監視を幇助する。

『女が眠る時』(c)2016 映画「女が眠る時」製作委員会

 それによって、この映画のメインキャスト4人の間では「書かせる女」「書けない男」「撮る男」「撮られる女」の順にそれぞれが一方的に監視し合うシンプルな構図ができあがるのだが、それが終盤に一方通行でなくなることによって、複雑なミステリーとして初めて成立することになる。まして、そこに劇映画の根底を司る「書く」という行為と「撮る」という行為の両方が成立するのだから、魅力は尽きることがない。

 さらに、ホテルの従業員を務める渡辺真起子や、民宿のオーナーを演じるリリー・フランキー、地元の刑事を演じる新井浩文といった脇を固める演者たちが、どことなく不気味な雰囲気を放ち続ける。とくにリリー・フランキーのぶっきらぼうでありながらも、的確に相手に言葉を伝えようとしているような喋り方と、時折見せる不穏な笑みは、この映画をよりミステリアスに落とし込むためのフックとしての重要な役割を果たしているのだ。

『女が眠る時』(c)2016 映画「女が眠る時」製作委員会

 ウェイン・ワンという映画作家というと、やはり『スモーク』という輝かしい一本のフィルムによって厚い信頼を寄せられている存在である。香港で生まれ、アメリカで映画を撮り続けていた彼のこれまでの作品に現れてきた多国籍感が、日本を舞台にどのような印象をつけることができるのか、正直不安な部分もあった。しかしながら、東京からわずか2時間半で行くことができる伊豆のリゾートホテルですら、外界から隔絶された異世界のように見せるその手腕は、まだまだ彼の突出した才能が健在であったことを証明したのである。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『女が眠る時』
2016年2月27日(土)公開
監督:ウェイン・ワン
出演:ビートたけし、西島秀俊、忽那汐里、小山田サユリ
撮影監督:鍋島淳裕
脚本:マイケル・レイ、シンホ・リー、砂田麻美
(c)2016 映画「女が眠る時」製作委員会
公式サイト:http://www.onna-nemuru.jp/

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