『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』緊急ロングレビュー
まさに「ピープル with J.J.エイブラムス」 これぞ、みんなが観たかった『スター・ウォーズ』だ!
しかし、次第にストーリーは枝葉部分においてもたつき始め、中盤からはいかにもJ.J.エイブラムスらしい雑なシーンのつながりも気になってきた。J.J.エイブラムスは良くも悪くもテレビ出身のディレクターで、いつも2時間という「映画の時間」の流れよりも、展開を詰め込むことに執心してしまう。また、『スター・ウォーズ』はクライマックスにおいて常に(厳密に言うとエピソード4以外)空中戦と地上戦を同時進行で描いていくわけだが、致命的なのはその空中戦の方があまりにも予定調和で、まったくドキドキしないこと。あ、いや、これは個人的な意見で、「その予定調和こそがいい」という意見もあるのは理解できる。ただ、あえてその裏をかくという選択肢も、あるいはそもそもデス・スターみたいなやつ(序盤にそれが登場した瞬間に誰もが結末を予想するだろう)を出さないという選択肢もあったのではないか?
つまりだ。『フォースの覚醒』は『スター・ウォーズ』ファンなら涙せずにはいられないシーンや細部がてんこ盛りだし、個々のキャラクター設定やその描写には新鮮味もあってちゃんと今の時代も反映されているし、なによりもオリジナル・キャストが(少なくとも今作では)誰もが想像していた以上に活躍しているし(3人とも容姿や雰囲気もちゃんと仕上げてきてる!)、観ている最中はただただ嬉しくて楽しくて大好きで仕方がないのだが、全体としてはどこかファンに媚びすぎているような印象を感じずにはいられないのだ。要は、同じく新シリーズの一本目であった、ルーカスが撮ったエピソード1のように批判されることをあまりにも怖がりすぎているような。
とはいえ、J.J.エイブラムスはとりあえずやるべきことは完璧にやり遂げたと思う。もっと言うと、やるべきことだけをやって、ファンの怒りを買うような余計なこともしなかったのと同時に、ファンを賛否両論で真っ二つにするようなサプライズを仕掛けることもなかった(まぁ、あまりにも重大なことがあるっちゃあるんだけど、あれは監督や脚本のせいではなくキャストの都合だと自分は解釈した)。きっと本格的にそれを仕掛けるとしたら、次作エピソード8なのだろう。
というわけで、スピンオフを一本挟んだ次作エピソード8の監督があのライアン・ジョンソンであるということも踏まえると、今の気持ちはエピソード2『クローンの攻撃』を待っていた時の気持ちよりも、はるかにエピソード5『帝国の逆襲』を待っていた時の気持ちに近い。そう、なんだかんだ言って、「『フォースの覚醒』を観終わった後の次への期待感は異常!」であることだけは間違いない。結論。今作単体での評価はひとまず置いておいても、みんなの『スター・ウォーズ』が、僕らの『スター・ウォーズ』が、本当に帰ってきた! 万歳!
■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)、2016年1月16日発売。Twitter
■公開情報
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
公開中
監督:J.J.エイブラムス
脚本:ローレンス・カスダン
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
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