シルヴィア・チャン、最新監督作『念念』のQ&Aに登壇 作中に登場するバーの裏話を明かす
第16回東京フィルメックス特別招待作品『念念』の上映が昨日11月27日に行われ、監督を務めたシルヴィア・チャンが上映後のQ&Aに登壇した。
女優・映画監督・プロデューサーとして活躍するシルヴィア・チャンの監督最新作『念念』は、幼い頃に両親の離婚により離ればなれになった、台東の沖にある緑島で生まれ育った兄妹ナンとメイ、そしてメイの恋人シァンの、心の葛藤を描いた作品。
今年の東京フィルメックスでは、コンペティション部門の審査員を務め、前日の11月26日には、特別招待作品のジョニー・トー監督最新作『華麗上班族』の上映後Q&Aに出演者兼プロデューサーとして登壇、クロージング作品のジャ・ジャンクー監督最新作『山河ノスタルジア』にも出演しているシルヴィア・チャン。今回のQ&Aでは、監督として、集まった観客からの質問に答えた。
チャンが「この映画を撮るのは運命だったと思う」と語る本作は、台湾で活躍する蔭山征彦が脚本を務めている。この題材を手掛けようと思った理由について、「この脚本を読んだときに本当に心が痛み、切なくなりました。特に若い男性の自分の家に対する家族への想い、どうしてもわだかまりが解けることのない心の痛みというものが、非常に幻想的な雰囲気で表現されていました。私は1人の母として、この物語に心を打たれ、惹かれたわけです」と語る。一方で、「この作品は商業的な映画ではないですし、ストーリーテリングに重きを置いていません。撮影のときは脚本を捨てて、役者一人ひとりが醸し出す雰囲気や情感を表現しました」と現場での雰囲気を重視したことを明かす。
ヒロインであるメイ役のキャスティングに相当悩んだというチャン。イザベラ・リョンが務めることになった経緯について、「あるときイザベラ・リョンに会う機会があって、いろいろ話をしました。そして、『長いこと脚本を読んでいないが、どうしても映画に出たい』という彼女の強い想いを感じました。そのとき、ふと、『私のヒロインが目の前にいたんだわ』と思ったわけです。ちょっと神経質だけど、心の中に強いものを持っている。そんな彼女の雰囲気は、私がヒロインに託しているものと、ピッタリだと思ったんです」と話した。
物語の舞台となった緑島については、「元々は台湾と北海道がロケ地として設定されていましたんです」と明かしつつ、「ただ、台湾と北海道ではあまりにも離れ過ぎているので、撮影には難しいと思ったんです。緑島は台湾の東部にある離島で、かつてはいくつもの監獄があり、日焼島と呼ばれていました。今は監獄も一箇所しか残っておらず、人々も注目しなくなってきていたんですが、最近は観光化が進んできて、ダイビングもできるような観光地になっています」と説明した。
最後に、観客から作品の中に出てくるバーについて質問が飛ぶと、「あのバーは、30数年台湾で営業されている、日本人男性が経営している会員制のバーです。このバーは30年もの間、内装を全く変えておらず、時間を重ねてきた雰囲気をすごく持っていました。最近はお客さんが少なくなってきていたのですが、映画が公開されてからお客さんも増えたようです」と話し、「実はあのシーンは4回も撮り直したんです。『また来たか!』という感じで、本当に嫌がられました(笑)」と、撮影の裏話も披露した。
(取材=宮川翔)