水曜深夜に出現した“心のオアシス”ーー『おかしの家』の面白さと中毒性に迫る

 オダギリジョー主演の深夜ドラマ『おかしの家』が、静かな人気を集めている。というか、何を隠そう、筆者も毎週観るのを楽しみにしている者のひとりである。しかし、正直な話、その面白さに最初は気がつかなかった。なぜか? 本稿ではその理由と、このドラマが持つ面白さ、そしてその中毒性について書いてみたいと思う。

 TBSが10月期より新設したドラマ枠「水ドラ!!」。そのシリーズ第一作としてスタートした本作の注目度は、事前段階では、かなり高いものだった。(参考:『コウノドリ』『オトナ女子』『おかしの家』・・・・・・この秋スタートする連続ドラマへの期待)。まず、「深夜帯ならではのエッジの効いた企画への挑戦や、TBSの次世代クリエイターの発掘と育成を目的に創設」されたという、「水ドラ!!」枠のコンセプトに対する注目と期待。そして、その記念すべき第一作を託されたのが、史上最年少でブルーリボン賞を受賞、『舟を編む』(2013年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた若手監督・石井裕也という事実。これを見逃す手は、どう考えてもないだろう。

 とはいえ、他のドラマがいっせいにスタートするなか、やや遅れて始まった(10月21日~)本作の内容は、少々意外なものだった。もっと言うならば、なかなかどうして結構地味なものだった。これのどこか「深夜帯ならではのエッジの効いた企画」なのだろう? 第一話を観終えたあと、正直そう思ったものである。しかし、第三話を終えた現在、自分がこのドラマを観ることを毎週楽しみにしていることに気づいてしまったのだ。そんな『おかしの家』の内容は、ある意味とてもシンプルなものとなっている。

 物語の舞台となるのは、東京の下町にある駄菓子屋「さくらや」。両親を早くに亡くした主人公・太郎(オダギリジョー)は、祖母・明子(八千草薫)が営む「さくやら」の店主をしながら、その裏庭に集まって来る常連客たち……太郎の幼馴染である三枝(勝地涼)、後輩の金田(前野朋哉)、近所で銭湯を経営する島崎(嶋田久作)と、駄菓子を食べつつおしゃべりしながら日がな一日過ごしている。そんな、都会の「エアポケット」のような「さくらや」に、毎回意外な人物が訪れる……というのが、このドラマの基本的な構造だ。

 本作のヒロインである、太郎のかつての同級生・礼子(尾野真千子)もまた、本作の初回で、そんなふうにして登場した。離婚を機に、息子を連れて地元に帰って来た礼子。その彼女も含めた「さくらや」の面々のもとに、第二回では、今や年収一億のIT社長となった同級生・武田(藤原竜也)がやって来る。そして、第三回では、「さくらや」を訪れこそしないものの、太郎たちの小学校時代の同級生だった女の子・清美(黒川芽以)の現在が話題となる。

 しかし、「恋と恐怖」、「意味」、「後悔」……それぞれのエピソードにつけられた副題は、思いのほかシリアスだ。そう、実はこのドラマ、その見た目ほど、お気楽な話ではないのだ。シングルマザーを取り巻く現状に疲弊しつつある礼子、30歳を過ぎても脚本家の夢をあきらめきれない三枝、実は元ひきこもりであるという金田。そして、主人公である太郎は、実は深夜の工事現場バイトをしながら、日々の生活費を稼いでいるのだった。陽だまりのように温かなトーンの画面とは裏腹に、このドラマで描きだされる「30代の現実」は、なかなかにして甘くない。

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