東京国際映画祭、今年の注目ポイントは? 『灼熱の太陽』『FOUJITA』など話題作をピックアップ

 そして、おそらくほとんどの映画ファンの興味の中心は、ワールド・フォーカス部門でしょう。まだ日本公開が決まっていない、世界中の有名監督の最新作や、三大映画祭で話題になった作品をお披露目するこの部門。他の国際映画祭ではコンペティションで上映されるような作品ばかりを集めた豪華なラインナップは、眺めているだけで心躍ります。

 ヨーロッパ勢からは『シルビアのいる街で』が日本でも公開されたホセ・ルイス・ゲリンの新作『ミューズ・アカデミー』や、イタリア現代映画界の巨匠マルコ・ベロッキオの『私の血に流れる血』、さらに日本でもカルト的人気を誇る『ポゼッション』のアンジェイ・ズラウスキ監督の久々の新作『コスモス』など最強の布陣。

 とくに注目すべきは、今年のカンヌ国際映画祭『ある視点』部門で審査員賞を獲得したクロアチア映画『灼熱の太陽』。若き俊英ダリボル・マタニッチ監督が手がけた本作は、クロアチア紛争の時代から三つの時代を、それぞれ異なるキャラクターの物語で構成し、民族問題をラブストーリーという土台の上で描き出した意欲作。主演の二人が、異なる時代の三つの役を演じ分けるというアイデアと、練りこまれた構図の画面から目が離せません。これは日本公開を切望する声が上がること間違いなしの一本です。

 そんなヨーロッパ勢を迎え撃つアジア勢も錚々たる顔ぶれ。韓国からホン・サンス、香港からダンテ・ラムと、近年日本でも作品が公開される人気監督を始め、インドのマニラトナムやインドネシアのガリン・ヌグロホのような映画祭でしか観ることができない実力派監督の作品が並びます。

 すでに上映は終了しましたが、ガリン・ヌグロホの『民族の師 チョクロアミノト』はとても忘れがたい大作映画でした。『アクト・オブ・キリング』で60年代の大虐殺事件が取り上げられるなど、近年少しずつ知られるようになってきたインドネシア史。オランダ領時代に活躍した、建国の父の一人であるチョクロアミノトの物語を描いた本作は、インドネシア史を知る上で最も重要な映画といえるでしょう。ヌグロホ監督は3年前のこの映画祭で上映された前作『スギヤ』で、同じく建国の為に身を投じた司教スギヤプラナタを描いており、どちらも重厚なテーマでありながら、決して重苦しくないタッチで、歴史と向き合うことができます。

 今年は前述した主要部門以外にも「ガンダム特集」や、「寺山修司特集」。没後1年を迎える高倉健さんの特集上映、7年ぶりに復活した「日本映画クラシックス」など、興味深い企画が勢揃い。共催企画として行われている「生誕100年オーソン・ウェルズ」は京橋のフィルムセンターで11月中も上映が行われておりますので、この機会に思う存分映画の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

関連記事