恋愛から解き放たれた女性映画『マイ・インターン』の新しさ

 ベストセラー小説を映画化した『プラダを着た悪魔』で、ニューヨークの一流ファッション誌の鬼編集長に、こき使われ、いびられつつも奮闘するアシスタントを演じ、作品のヒットとともに大ブレイクを果たしたアン・ハサウェイが、それから9年経ったいま、ファッション業界で活躍するキャリアウーマンとして再び帰ってきた。しかも、ファッションサイトを運営する企業の経営者、つまり、あのメリル・ストリープの演じた鬼編集長の立場に近い管理職としてである。そしてさらに、今回そのアシスタントを演じるのは、なんとロバート・デ・ニーロなのだ。この設定だけでも、本作『マイ・インターン』の試みの奇抜さに期待してしまう。

 『マイ・インターン』は、働く女性の生活を、ファッションやインテリアでお洒落に、また心理をリアルに描写しながら、この異色のコンビが活躍する設定を利用して、コメディ・タッチで軽快に、しかし女性の在り方や理想の男性像を新しく捉えなおした映画として、面白さと先進性を併せ持つ挑戦的な作品に仕上がっていた。ここでは、この新しさの秘密に、できるだけ深く迫っていきたい。

 

役割を逆転させた現代的な物語

 『プラダを着た悪魔』以降の9年間、様々なヒット作に出演しオスカーを獲得、いまやアメリカを代表する女優のひとりとなった、アン・ハサウェイ。彼女は、アカデミー賞授賞式や、TVのバラエティ・ショーでも、優れた歌唱力でミュージカルやラップを披露し、「リップシンク(口パク)・バトル」に出演した際には、タンクトップ姿でスタジオに吊り下がった巨大な鉄球を模した振り子にぶらさがるという、第一線のハリウッド女優としては、あり得ないような圧倒的なパフォーマンスを披露し、アメリカ国内で話題になった。

 その「目立ちすぎる」振る舞いは、ときに「でしゃばり」と言われ、一部でやっかみの対象にもされてきた。プライヴェートでは、そんな世間の声に傷ついていたという彼女だが、仕事の現場では批判に屈せず、パフォーマンスはエスカレートする一方だ。その勇敢な姿勢は、彼女が演じる強いヒロイン像に重なる部分が多い。『マイ・インターン』の主人公ジュールズは、強い意志で人生を切り拓いてきたアン・ハサウェイを象徴するように、30代前半で夢を達成した、若くバイタリティのある女性である。

 

 彼女が演じる主人公ジュールズの現在の悩みは、急成長していく会社の業務に忙殺され、家庭をケアする時間がほとんどないということだ。会社経営をする自分を気遣って家庭に入り「イクメン」になった夫や、育ち盛りの幼い娘に負い目を感じている。これまで、多くの場合「男の問題」とされてきたことに、彼女は直面しているのだ。それを解決する道として、誰か有能な人物に経営者の座を譲り渡そうという選択に迫られている。

 一方、そんなジュールズの企業に、「シニア・インターン」として、ロバート・デ・ニーロ演じる、70歳を超えたベンが入社してくる。もともとこの企業にとってインターン制度は、企業のイメージアップ戦略の一環としての意味でしかないようで、ベンは職場で全く期待されていない。彼はジュールズのアシスタントとして配属されるが、とくにジュールズは、「こんなおじいちゃんが何の役に立つの?」という態度を隠そうともせず、彼に仕事を与えないばかりか、忙しさにかまけて数日間そのまま放置してしまう。

 面白いのは、ここでのジュールズというのは、無理解で偏見を持った「男」そのものになってしまっているということだ。彼女が老年の男性など役に立たないと考えているというのは、偏見を持った男が、「女などバカだ」と考えているのと変わりがない。ジュールズはおそらく、厳しいビジネスの世界で勝ち抜いていくなかで、他者への想像力が失われ、悪い意味での「男性的」な存在になってしまっているのであろう。これは、アン・ハサウェイに対する悪意のあるパブリック・イメージにも近いのかもしれない。

 

 しかしジュールズの予想に反し、ベンはきわめて優秀だった。仕事を与えられなくとも、独自の判断で、しかも「波風を立てないように」、適切に職場の問題を解決していく。彼は、長い間管理職として職場をまとめていた経験から、あらゆる職場問題への対処を心得ていたのだ。さらには、YouTubeやInstagram、Skypeなどが活用されている環境にも必死に順応し、次第に会社のなかで必要とされる存在になっていく。ついにはジュールズも、自分が偏見を持っていたことを素直に認め、人間として成長することになる。ジュールズの夫がイクメンとして家庭に入ったのと同様、ここでの、ジュールズが矢面に立ち対外的な仕事をこなし、ベンが「内助の功」を務めるという、これまでの価値観でいうと男女が逆転しているような関係は、ここ数年のハリウッド映画における女性の描き方の変化を象徴しており、その背景には、来年の大統領選挙で初の女性大統領が生まれる可能性が高い、アメリカの現在の空気が感じられる。

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