女優・波瑠は『あさが来た』でブレイクなるか? “没個性という個性”の可能性を読む

 女優としてデビューした後、『seventeen』の専属モデルを務めるという、少し変わったキャリアを積み、映画もテレビドラマもコンスタントに出演しているものの、どこか印象に残らない。どうにも、初期の頃の彼女の作品を見ていると、他の女優でも演じられるような、キャラクターの個性が強いものが目立ち、彼女自身の個性が没してしまっているのだ。これは女優にとっては不運でならない。

 一体どのタイミングで転機が訪れたのか、それはそれまでの長い髪を短くしたという、あまりにも突然のことだろうか。前述の「ショートカットで少し地味目の女性」というイメージを逆手に取るかの如く、年齢のわりに落ち着いたキャラクターを発揮し、没個性という個性を手に入れたのである。そうなると、それまで無かった存在感が自然と発生してくるのである。『BUNGO~ささやかな欲望~/告白する紳士たち』おける「幸福の彼方」での林芙美子原作のヒロインとしての気品を巧みに演じ、続く中村義洋の『みなさん、さようなら』で主人公の隣の家に住む少女の変化を演じきるなど、一見すると特徴のないキャラクターに、確たるシルエットを与えていく。

 その落ち着いた風貌がとくに活かされていたのが昨年のドラマ『ごめんね青春!』で、彼女が演じたのはヒロイン満島ひかりの姉役。実年齢では満島の方が6つばかり年上にもかかわらず、その姉役を違和感を感じさせることなく演じていた。また、彼女のさらりとした雰囲気は、芝居だけでなく、バラエティ番組でも発揮され、2013年から1年間アシスタントを務めた『A-Studio』での好印象は、モデルとしての彼女を見続けた同世代の女性たちだけでなく、それまで彼女を意識してこなかった男性たちにも魅力的に映ったものだ。

 『あさが来た』で彼女が演じるのは日本初の女子大学を設立した女性実業家・広岡浅子。はんなりとしたイメージの京都弁を使いながら、どこかお転婆で活発な女性である。今や大女優の風格を放つ宮崎あおいの妹役という、これまでの彼女が演じてきたイメージを覆すキャラクターを演じるのだ。実力と個性を兼ね備えたキャストの中で、主演としてどこまで印象を残すことができるか、これは半年間見守り続けることが実に楽しみだ。

 また、11月には人気作家伊坂幸太郎原作の『グラスホッパー』や、主演作『流れ星が消えないうちに』が公開されるなど、これまでのイメージ通りのキャラクターも演じつづけ、決して演技の幅を狭めることはしない。今年の春に『non-no』のモデルを卒業したことで、女優一本として活躍していく彼女の飛躍に注目していきたい。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

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