『ピエロがお前を嘲笑う』が仕掛ける“マインドファック”とは? 新鋭監督が手がけた意欲作を観た

 なるほど、これは面白い! 都内では1館のみという極めて限定的な公開でありながら、連日連夜満員が続いているという映画、『ピエロがお前を嘲笑う』のことだ。本国ドイツで大ヒットを記録、すでにハリウッドでリメイクが決定しているという本作。ピエロの仮面をかぶった男がこちらを見つめている、やや恐ろしげなヴィジュアルと、“マインドファック・ムービー”(要は、映画全体を覆す仕掛けを持った映画ということらしい)と銘打ったキャッチ・コピーを見て、思わず尻込みしてしまう人がいるかもしれないが、何のことはない。この映画は、ハッカー版『ファイト・クラブ』なのだ。

 人生をあきらめかけた孤独な男が、カリスマ的な魅力を持った男と出会い、世の中をあっと言わせる大胆な行動を起こしてゆく。本作の主人公ベンヤミン(トム・シリング)は、自身を「透明人間」と称するほど存在感の希薄な、誰からも必要とされていない孤独な青年だ。コンピュターの世界に没頭するようになった彼は、そこでカリスマ・ハッカー“MRX”の存在を知り、憧れを抱くようになる。そして、“MRX”の提唱する三原則、「すべてのシステムには穴がある」、「不可能に挑戦しろ」、「現実世界を楽しめ」に従い、自らハッキングに挑戦するも、あえなく失敗。実刑こそ免れたものの社会奉仕活動を命じられ、そこで大胆で魅力的な野心家、マックス(エリアス・ムバレク)と知り合う。ハッキングの知識を買われたベンヤミンは、マックスの友人たちと“アノニマス”を模したピエロの仮面姿のハッカー集団“CLAY/Clowns Laugh At You(ピエロがお前を嘲笑う)”を結成。ドイツ国内のさまざまな企業や団体のサーバーに潜入し、世の中をあっと言わせるような活動を展開してゆく。しかし、カリスマ・ハッカー“MRX”は、そんな彼らの行動を認めようとしない。それに業を煮やした“CLAY”の面々は、次第にその活動をエスカレートさせ、とうとう犠牲者が出てしまう。さらに、そんな彼らを逮捕すべく、ユーロポール(欧州刑事警察機構)も動き始め……。

 スピード感溢れる編集の魅力はもちろん、元々は負け犬だった“CLAY”の面々のホモソーシャルな関係性、そして細田守監督の『サマーウォーズ』のように戯画化されたサイバースペース描写など、大胆なアイディアが随所に盛り込まれた本作。特筆すべきは、“MRX”の三原則の最後にあるように、本来静的であるハッカー集団の活躍を、現実世界とリンクさせながら描いていることだろう。彼らは、ただパソコンの前にいるだけではなく、徒党を組んで企業や団体に潜入する。それは『オーシャンズ11』(2001年)のような襲撃アクションとしての魅力を持っているのだった。しかし、サイバースペースと異なり、現実世界は身体的なリスクや痛みも伴う。そして最悪の場合、その生命をも奪う。単に、世の中から無視され続けた自分たちの存在を、世に知らしめるために行ってきた“CLAY”の活動は、やがて“ダーク・インターネット”の世界に抵触し、ロシアン・マフィアからも、命を狙われるようになるのだった……。

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