なぜオーストラリア出身女優はハリウッドで人気なのか? ミア・ワシコウスカらの活躍から理由を探る

 

 彼女の稀有なところは、ハリウッド大作の主演を務めた後も、出演する作品が多岐に渡っている点だ。『エンジェルウォーズ』の直後に出演したのはオーストラリアのインディペンデント映画であるし、小品のホラーやサスペンスから、英国の文芸映画までこなし、今回の『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』ではミュージカル映画というジャンルに初挑戦。ポップな衣装を身に纏いながらも、どこか影を持った少女を好演している。本作はこれまでの彼女のキャリアの中でもずば抜けて魅力的な映画である。

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(C) FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012

 一方で、ブラウニングが世界的にその名を知られることになってから数年後、1歳下の同郷女優が世界的メガヒットとなる超大作の主演に抜擢される。それがミア・ワシコウスカであり、彼女がブレイクするきっかけを後押ししたのは、オーストラリア映画界のもうひとつの側面であった。

 ワシコウスカの名前が映画人に知られたのは『I Love Sarah Jane』(2008年)というショートフィルムによってである。ゾンビに侵された町で、生き残った少年たちの中で抜きん出たオーラを放つ少女を演じているのが彼女だった。この作品はサンダンス映画祭で上映され、また他の映画祭でも高い評価を得た。

 オーストラリアは毎年、長編映画よりも多くの優れた短編映画が製作されている国である。低予算で作り上げられるインディーズの短編映画の数々は、各国の映画祭で上映され、優秀な若い人材がいることを世界中にアピールする面をもっている。このアピール力こそ、オーストラリア映画界の最大の強みと言えるであろう。

『奇跡の2000マイル』で、彼女は久しぶりにオーストラリア映画に復帰し、まるでこの数年間の急成長を振り返るかのごとく、母国の大地を歩いていく。アリスにふんし、映像作品としては30人目となったジェーン・エアを演じ、死にゆく少女やヴァンパイア、ボヴァリー夫人まで演じてきた彼女が、これまでのどこか繊細だったイメージとも異なる、力強い演技を見せているのだ。

 これから先、まだまだハリウッドのみならず世界の映画界はオーストラリア女優のポテンシャルの高さに驚愕するであろう。ブラウニングとワシコウスカとほぼ同世代のマーゴット・ロビーをはじめ、『クジラの島の少女』(2003年)のケイシャ=キャッスル・ヒューズ、より若い世代ではモーガナ・デイヴィーズやエリー・ガルなどがブレイクのタイミングを見計らっている。そして長年テレビ界で活躍していた大御所ジャッキー・ウィーヴァーまでもハリウッドで評価される時代になったのだから、より一層彼女たちが競い合い、高め合っていく姿を見守っていきたい。

◼️公開情報
『奇跡の2000マイル』
配給:ブロードメディア・スタジオ
(C) 2013 SEE-SAW (TRACKS) HOLDINGS PTY LIMITED, A.P. FACILITIES PTY LIMITED, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM
CORPORATION, SCREEN NSW AND ADELAIDE FILM FESTIVAL

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
配給:アット エンタテインメント
(C) FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012

◼️久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。