戦争帰りの軍人の心を癒すのは? 傷病兵と親を亡くした少女の再生描く『ASTRAEA』

【漫画】戦争帰りの軍人の心を癒すのは?

 ラーメン、星、軍人――。友人が挙げた脈絡のない言葉から生まれた漫画『ASTRAEA(アストレア)』が、Xに投稿されている。2022年にサンデーうぇぶり新人賞・奨励賞を受賞した、傷病兵と親を亡くした子どもが心を通わせるハートウォーミングな作品だ。

 偶然の断片から「美しいもの」を編み上げたのは、矢木直樹さん(@yaginaoky)。殺し屋アクション『クジラの葬列』の連載を終え、次作を準備中の彼に話を聞いた。 (小池直也)

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『ASTRAEA』(矢木直樹)

――本作は、どのような経緯で生まれたのでしょう。

矢木直樹(以下、矢木):「雑誌に掲載するための短編を描こう」という話になって、8〜12ページくらいのネームを1日に3作ほど、毎日編集者に送っていた時期があるんです。でも自分から突発的に出てくるものだと似た感じになるので、友達に思いつくままの単語を4~5つ挙げてもらいました。

 ラーメン、星、軍人……。そんなふうに言葉を集めて作ったのが本作です。最終的に残ったのが「軍人」と「星空」、そして「プラネタリウム」だったと思いますね。

――偶発的な出発点だったんですね。

矢木:編集の方から「哲学的なものが言語化できていない」といつも言われるんです。でも自分はカッコいいものと美しいものを描きたい気持ちだけで突っ走るタイプで、特に短編は「美しいものを描きたい」の一心。

 『ASTRAEA』も、リアルさよりも「こんな話があったらいいな」を優先して描いた感じでした。舞台は少し昔のアメリカくらいを想定しています。

――発表時の反響はいかがでしたか。

矢木:出す直前くらいに、ちょうどロシアとウクライナの戦争が始まりました。それもあって「タイムリーだね」という感想が多かったです。もちろん、そうなる前に考えていた話なので狙ってはいないのですが。

――タイトルの『ASTRAEA』は響きが印象的な言葉です。

矢木:小中学生の頃は父が仕事から帰るたびに、毎日新しい本を1冊くれる家でした。ギリシャ神話や北欧神話、日本神話が大好きで、そればかり読んでいたんです。たしか『子どもでもわかるギリシャ神話』みたいな本がきっかけだったと思いますね。

 反抗期に入るまでは、1日1冊もらって読む習慣を繰り返していました。「ASTRAEA」というタイトルはそうやって蓄えた言葉のバリエーションから浮かんだのかなと。

――登場人物は傷病兵と親を亡くした子どもですが、この設定については?

矢木:血の繋がりのない親子関係を描いた物語が自分の作品には多いです。今作も叔父と姪の物語ですが、新人賞への応募にあたって、背景を説明する部下ポジションのキャラ「ヘンリー」を足しました。

 基本的にはファンタジーを描いているつもりなんですけどね。でも「血縁にとらわれることはない」という気持ちもありつつ、寄せ集めの他人同士でも深い絆ができるんじゃないか、できたらいいなという思いがあります。

――終盤の簡易プラネタリウムのシーンが美しいです。

矢木:あそこは神々しく描きたいという思いがありました。あのプラネタリウムは懐中電灯のようなライトを逆さに置き、穴をたくさん開けたビニール袋で包んで、部屋を真っ暗にすれば実際に作れるんですよ。といっても、自分は本で読んだだけで、そんなにロマンティックな子どもではなかったんですけど(笑)。

――作画でこだわった点はありますか。

矢木:女の子の瞳をキラキラさせることに重きを置いていました。昔から「女の子が可愛くない」と言われ続けてきたんですよ。いつも人殺しの目をした男性ばかり描いているので、女の子は難しくて。

 だから本作は当時、気に入っていたキラキラの描き方で目を固めていましたね。ただ女の子に寄せると男が丸っこくなり、男に寄せると女が角張ってしまう……。それを両立させる方法は今も模索中です。

――ご自身にとって『ASTRAEA』は今どんな作品だと捉えていますか。

矢木:思いつきの限りで描いた漫画ではありますが、ちゃんと美しいものを描けたんじゃないかと思っています。宮沢賢治『銀河鉄道の夜』のような純文学が好きなのですが、そういう気持ちも表現できているなと。

――『クジラの葬列』の連載を終えて、感じたことはありますか。

矢木:出版業界の厳しさをしみじみと感じましたね。面白いものを描いても、知られなければ読まれない。広報の仕方もレーベルによりけりだなと実感しました。だからこそ、作家自身もSNSを使っていかないと難しい時代なんです。

 連載を通して、ウケがいい要素や悪い要素の感覚がぼんやりと理解できてきました。あとは作画面、ストーリー面で自分の苦手な部分がだいぶ見えたので、そこをカバーしつつ制作していければ。

――今後の展望を聞かせてください。

矢木:「次は打ち切りにならないぞ」という気持ちがあります(笑)。自分の満足いくものを描くのはもちろんですが、まず生活を安定させたいという気持ちが強いですね。ろくに社会人経験もないままフリーランスになって、「こんなに税金を納めなきゃいけないのか」と驚いている状態なので。ちゃんと稼ごうと思います。

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