『薬屋のひとりごと』アニメ第3期、“地味”でも離脱しないほうが良いワケ スケールの大きな謎解きへの期待

『薬屋のひとりごと』アニメ第3期は地味?

 日向夏の人気シリーズ『薬屋のひとりごと』(ヒーロー文庫)のTVアニメ第3期が放送スタート。宮廷の後宮を舞台に、薬学や医学の知識を持つ猫猫という少女が、次々に起こる怪事件の謎を解いていく。ミステリとしての面白さで魅せてきたシリーズが、原作と同様にここから大きく物語世界を広げていく。TVアニメの見どころや原作小説の読みどころは?

 後宮ではない。美貌で女性も男性もクラクラさせる宦官の壬氏もいない。主人公の猫猫がいるのは宮廷の外にある花街に近い自分の家で、そこから薬屋を開いている妓楼の緑青館へと湯をもらいに出かけていっては、古い馴染みのやり手婆や遊女たちとなれ合いのような会話をかわす。

 原作の第5巻『薬屋のひとりごと5』に描かれるエピソードから始まるTVアニメの第3期は、良く言えば庶民的だが言葉を選べば地味な舞台で、お金のことや食べるものに関する世知辛いやりとりが繰り広げられる。権力の座をめぐる争いはあっても、生活には不自由のない宮廷とは違って、外の暮らしが現代と変わらず大変なことをうかがわせる。

 さらわれて後宮に売り飛ばされても臆しない猫猫の豪胆な振る舞いや、持てる知識を使って謎を解く姿から感じられたワクワク感も、まだそれほど感じられない。もっとも、スケールの大きな謎解きであり冒険はすでに始まっている。そのひとつが蝗害との戦いだ。

 大群で押し寄せるバッタによって農作物が食い荒らされる蝗害は、大変な飢饉が発生することから国が倒れかねない事態に発展することもある。その蝗害に猫猫が向き合い、蝗害への対策が書かれているらしい本を探し回ることになる。ただ、この段階では蝗害もひたひたと忍び寄る脅威として描かれている感じ。少し先で本筋には絡んでくるが、目先の展開は猫猫と壬氏が連れ立って旅に出た先での出来事が中心になっていく。

 ここで気をつけておきたいのは、もはや壬氏がただの美しい宦官ではなくなっていることだ。皇帝の弟だったことが猫猫にも、そして宮中にも分かってしまっている。実はさらなる秘密もあるのだが、それはいずれ語られることとして、目下の壬氏は皇弟としての仕事に追われて、忙しい日々を送っている。

 だから、以前のように頻繁に後宮や宮中で猫猫と絡むことはない。壬氏の猫猫に対する思いと、それにまるで気付かない猫猫とのすれ違いから漂うコミカルさが味だったこともあり、それが足りない第3期が比較的地味に思えてしまうのかもしれない。

 とはいえ、壬氏と猫猫の縁が切れた訳ではなさそうで、皇弟としての壬氏が出向くことになった西都に、なぜか猫猫も連れて行かれることになる。道中に起こる様々な出来事では、いつものようなデコボコとした関係を見せてくれるだろうから、ファンとしては一安心だ。

 到着した西都には、ある理由から現皇帝の上級妃のひとりでありながら、幼いこともあって特別な境遇に置かれている里樹妃も赴くことになる。そこで、身に危険が及ぶような騒動に巻き込まれる里樹妃を軸にしたエピソードが、しばらく続くことになる。TVアニメが原作の第6巻まで描かれることになれば、クライマックスはこの里樹妃とある人物が繰り広げるスペクタクルで胸をキュンキュンさせる展開が待っている。期待しておいて損はない。

 いずれにしても、西都行きによって都とは違う場所が描かれることで、宮中とも花街とも違う世界の有り様を知ることができる。世界が広がるというのは、そういう意味を含んでのことだ。

 登場人物も増えていく。壬氏に付き従っている高順の息子の馬閃が、旅にも同行してなかなかの活躍を見せる。苦労人といった雰囲気の父親と違って、血気盛んで力も強い馬閃の存在感が、TVアニメの第3期では結構な意味を持つ。原作でもしっかりと描かれているそのひたむきさが、第6巻やさらに先のエピソードで強く押し出されることになるだけに、チェックしておきたいキャラクターだ。

 猫猫は、第5巻から趙迂という少年と暮らすようになっている。出自もあってか物怖じしない趙迂に猫猫は、自分たちが暮らしている場所はとても危険だということを強く諭す。猫猫自身もそこで人さらいにあって後宮に売り飛ばされた。物語の世界が謀略の渦巻く後宮や宮中だけでなく、生きるのに必死な人々が大勢いる普通の社会だということが見えてくる。

 そして仙女。色素の薄い体質らしく真っ白な肌と髪と赤い眼を持つ女性の存在が、猫猫と壬氏の行く先々に影を落として展開に不穏さを加える。TVアニメには、暗がりの中からその白い姿をのぞかせつつ、苦しんでいる街の人々に何やら奇妙な食べ物を分け与えている姿で登場している。美しくて不気味な女性だ。

 仙女は何をしているのか。何が目的なのか。その正体は。TVアニメの第2期では、子翠という名で後宮に現れ猫猫と仲良くなった少女をめぐるスリリングな展開が描かれた。同じような謎めいた正体を持ち、目的を持った仙女こと白娘々が巻き起こす騒動に、猫猫や壬氏がどのように対峙していくのかが今から気になる。

 一部に人気を得ている変人軍師こと羅漢はというと、第3期では身請けした猫猫の母親の鳳仙と碁を打つことに夢中なあまり、宮中からの呼び出しに応じないという相変わらずの変人ぶりを見せている。傍らで宮中からの使者に断りを入れたのが陸孫という副官。なかなかのイケメンだけに、登場回数を増やして活躍する第3期はファンには嬉しいことだろう。

 羅漢はといえば、原作の第6巻あたりで羅の一族の間にいろいろな出来事が起こってその渦中に巻き込まれる。そうした展開の中で、めきめきと存在感を高めていくある男がいることについては触れておこう。誰かと明言するのはまだ早いが、とにかくいろいろと破天荒な人物だ。気にしておきたい。

 そうした物語の中で、やはり関心が向くのが猫猫と壬氏の関係だ。皇弟として妃を選ぶように皇帝からプレッシャーがかけられていることもあり、いつどうなってしまうか分からない。何か行動をとるのだろうか。猫猫なだけあっていつもどおりに素っ気ない態度を見せ続けるのか。それも面白いが、壬氏が可哀想過ぎるという声も起こりそうだ。

 何しろ壬氏が緑青館を訪ねてきた時も、風呂をすすめた上で世話をする若い女性を送り込み、疲れを取るために眠りたい壬氏に添い寝をする女性たちを妓楼から連れてきて、ずらりと並べるのだ。そうじゃないだろうと叫びたくなる壬氏の気持ちが伝わってくるすれ違いぶり。この関係が、TVアニメや小説の続きで果たして縮まっていくのかも含め、先を楽しめる作品であることだけは間違いない。



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