中島健人『SとX』のビジュアル要素、なぜ原作から改変された? その“着こなし”の狙いを読む

ほのぼのした世界観が提示する明確な二面性

 中島健人主演のNetflixシリーズ『SとX』(2026年)の序盤と終盤場面を見比べてみる。中島演じる主人公のセックス・セラピスト霜鳥壱人の初登場は、本作冒頭近く、通勤電車の場面だ。他の乗客たちが何やら怪訝な眼差しを向ける先に、壱人が座っている。

 壱人が辺り構わず読み耽っているのが、性交する男女の体位を描いた画集だからだった。完全に変態だと思われている。最寄駅に到着すると、慌てて下車する壱人はつまずき、カバンの中身をぶちまける。ホーム上に散乱したのは、大量の大人の玩具…。いよいよ変質者扱いされ、非常ベルまで鳴らされる。それらが、セックス・セラピストの職務に必要な研究資料だと誰も理解してくれないが、こんなことが日常茶飯事の壱人は慣れっこだ。

 この冒頭場面はコミカルに描かれている。ほのぼのした世界観の中で、他者から誤解される壱人の日常は、ほとんど喜劇的ですらある。しかし第1話終盤は対照的だ。アナウンサーの市之瀬佑美(新木優子)と偶然再会した壱人は、ビルの屋上でせっかく交換した彼女の連絡先をなぜかブロックし、少しダークで虚ろな表情を浮かべる。ドタバタしてコミカルな冒頭場面に対するカウンターであるかのように、壱人の明確な二面性が提示されている。

原作のビジュアル要素を改編した理由とは?

 ここ最近の中島は、キャラクターの二面性を強調した役柄を演じる傾向にある。町田そのこによる小説作品をドラマ化した『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店』(NHK、2026、以下、『コンビニ兄弟』)が記憶に新しい。舞台は福岡県門司港で地元の人々に愛されるコンビニ「テンダネス門司港こがね村店」。原作冒頭に「フェロモンを半永久的に垂れ流す源泉のような器官ができているに違いない」と記述があるように、主人公の店長・志波三彦(中島健人)は、来店するおばちゃまたちからアイドル的人気がある。

 悩みを抱える客たちの心を解きほぐす役柄は、親身になって相談者にコミットしようとする壱人とよく似ている。さらに、三彦には町の便利屋を営む志波二彦という双子の兄がいて、中島が一人二役で演じた。二彦は髭面のワイルドな見た目で日陰の存在として造形されている。三彦と二彦は独立した役ではあるが、2人セットで一心同体のキャラクター性があり、同一人物が内包する二面性と考えてもいいだろう。あるいは、『コンビニ兄弟』の中島は、役と役を重ね着しているといってもいいかもしれない。

 実際、三彦はコンビニのコーポレートカラーであるピンク色の制服の下に、必ず白いTシャツを重ね着している(私服も重ね着がマスト)。そして『SとX』の壱人もまた、カジュアルな長袖シャツの下に同じように白いTシャツを重ね着し、第1ボタンがあいた首もとを縁取っている。だがしかし、多田基生による原作漫画の壱人は基本的にネクタイをしめている。では、原作のビジュアル要素を改編した理由とは?

中島健人がまとう重ね着の魅力

 壱人は仕事中もプライベートでもネクタイをしめている。原作第2話の表紙絵では、人気のない渋谷センター街前で、ものかなしい表情を浮かべる壱人のネクタイが、画面下手方向へ向かって直角的に翻っている。ネクタイをしめてフォーマルな雰囲気を強調する原作の壱人に対して、中島が演じる壱人はノーネクタイで緊張を解いた印象を与える。

 Netflixでの配信前、原作漫画を読んでいる限りでは上述した表紙絵がキーアートになってくるのではないかと予想していたのだが、2026年7月29日に解禁されたビジュアルを見ると、やはりノーネクタイで白衣を羽織った壱人が、しなやかな両手を組んでこちらを見つめる画になっていた。だが、その画が引きの画であること、そして画面上手にブラインドのようなものが引かれていることから、本作の主人公とこれから作品を見る視聴者との間には、心なしか一線引いた距離感がある。

 確かに第1話冒頭と終盤で全く異なる表情を見せる壱人は、柔らかな性格のようでいてどこか掴み所がない気もする。因みに、『コンビニ兄弟』のキーアートは、三彦が映るサインの下に後ろを向いた二彦が配置されたデザインで、こちらも引きの画が主人公の二面的キャラクター性を客観的に浮き彫りにしていた。

 中島主演のNetflix前作『桜のような僕の恋人』(2022年)のキーアートでは、カメラマン志望の主人公がカメラを構え、ファインダーをのぞく姿がストレートに描かれていた。そこには作品を見る者が共感しやすいような導線が設計されている。対して『SとX』の中島は、あたかも重ね着がまとう魅力によってかのように、やや複雑な作品世界にも視聴者の目を溶け込ませてくれているようだ。

■配信情報
Netflixシリーズ『SとX』
Netflixにて独占配信中
出演:中島健人、新木優子、三浦獠太、藤間爽子、中村蒼、久間田琳加、山口紗弥加、ユースケ・サンタマリア、佐野史郎
原作:多田基生『SとX 〜セラピスト霜鳥壱人の告白〜』(講談社『モーニング』刊)
監督:草野翔吾
シリーズ構成・脚本:吉田智子
脚本:草野翔吾、松島瑠璃子、ばばたくみ
撮影監督:山田康介
音楽:FUKUSHIGE MARI
Gaffer:西村昌幸
ミュージックスーパーバイザー:穐山仁美
VFXプロデューサー:進威志
エグゼクティブプロデューサー:岡野真紀子(Netflix)
プロデューサー:瀬戸麻理子、齋藤大輔
プロダクションプロデューサー:押田興将
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
企画・製作:Netflix

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