『GANGSTA.』コースケが明かす、「黄昏種」に込めた創作哲学「みんなが混じって何とかうまく暮らしているのが当たり前」
2011年の連載開始以来、多くの読者を魅了し続けてきた『GANGSTA.』。荒廃した街・エルガストルムを舞台に、便利屋として生きるウォリックとニコラス、そして彼らを取り巻くアウトローたちの生き様を描くハードボイルドアクションだ。
緻密に張り巡らされた世界観や重厚な人間ドラマ、そして「黄昏種」をはじめとする独創的な設定が高く評価されてきた同作。2015年にはTVアニメ化も果たし、国内外で支持を集め続けている。
その一方で、作者のコースケ先生は全身性エリテマトーデスの合併症により、片目の失明や手指の麻痺、内臓疾患などを発症。長期間にわたる療養とリハビリを余儀なくされ、『GANGSTA.』も休載期間を迎えた。しかし、創作への歩みを止めることなく、2026年7月よりWEB漫画誌「コミックバンチKai」にて待望の連載が再開。再び物語は動き始めている。
今回、連載再開という節目を迎えたコースケ先生にメールインタビューを実施。『GANGSTA.』誕生の舞台裏から、休載期間を経て改めて向き合うキャラクターや作品への思い、「黄昏種」に込めた創作哲学、そして作品を待ち続けてきた読者へのメッセージまで率直に語っていただいた。
「描ける」と「描きたい」は、必ずしも一致しない
コースケ:当初は、まったく路線の異なる親子ものを連載する予定だったのですが、急遽「バトル要素のある作品に変更してほしい」というお話をいただきました。そこで、個人的な趣味で描きためていたキャラクターや世界観を急いで膨らませて生まれたのが『GANGSTA.』です。
準備期間は1か月ほどしかなく、本当に初めからいろいろとヤケクソでした。入稿サイズや解像度すら分からず、半泣きになりながら原稿を仕上げていたことをよく覚えています。タイトルも、その場で「それっぽいもの」を勢いで付けました。
――そんなドタバタなスタートだったとは驚きです。
コースケ:正直、私はバトルものや群像劇を描くのがあまり好きではなくて、一話完結形式の探偵もののような雰囲気を目指したかったのですが、当時から慕っている編集者のHさんに「バトルを描ける力があるんだから、描くべきだ」と言われて、かなり渋々、今の方向性になったんです。
商売としては、その判断はよかったと思います。ただ、やっぱり「描ける」と「描きたい」がかけ離れている状態は、心身の健康にはあまりよくないですね。それでも描くんですけど。
――連載開始当初と比べて、作品づくりへの向き合い方に変化はありましたか?
コースケ:文字どおり魂を削るような気持ちで作品と向き合っていたら、案の定、大病をしてしまいました。なので今は、とにかく力を抜いて、少し離れたところから作品を眺めるような感覚でペンを握っています。
――そうした日々のなかで、それでも『GANGSTA.』を描き続けられたのは、どのような存在や出来事が支えになっていたのでしょうか。
コースケ:前述した編集者のHさんと、最初のアシスタントであり、『GANGSTA:CURSED. EP_MARCO ADRIANO』を執筆してくれた鴨修平先生。このお二人の支えがなければ、私はとっくに軽率に筆を折っていた気がします。回らない寿司を奢ります!
創作への違和感から生まれた「黄昏種」と“どうでもいい”が当たり前のエルガストルム
コースケ:片目を失明してからは、リハビリも兼ねて手元ではずっと描き続けていたので、実は「久しぶりに再会した」というような感慨はあまりありませんでした。
休載中は、「漫画が難しいなら絵の仕事を」と思い、ゲームのキャラクターデザインも担当させていただいたのですが、その経験を経たあとでも、便利屋の3人は我ながらいいデザインだなと思えたんです。それは素直にうれしかったですね。
――リハビリ中もずっと描き続けていたからこそ、「再会」という感覚ではなかったとのことですが、そんなニコラスとウォリックは、コースケ先生にとってどのような存在なのでしょうか。また、長く描き続けてきたからこそ見えてきた二人の魅力がありましたら教えてください。
コースケ:腐れ縁です。一般的なバトル漫画の主人公と比べると少し年齢が高いので、一見すると大人っぽく見えるかもしれません。でも実際は、まだアイデンティティの模索が終わっていない、子どものような部分を抱えたキャラクターなので、そこが可愛げや親しみやすさにつながっているのかなと思います。
――本作には、ニコラスとウォリック以外にも、さまざまな背景や生きづらさを抱えた人物が数多く登場します。そうしたキャラクターや、「黄昏種」という存在を描くうえで、大切にしている考え方や、作品に込めた思いを教えてください。
コースケ:子どもの頃から、「障害者が障害を理由に加害され、そのあと加害者の謝罪を受け入れる」といったドラマや漫画の展開に、ずっとうんざりしていました。その反動のようなものが、「黄昏種」という人種の設定には反映されています。
「ものすごく強い障害者が健常者をぶっ殺す漫画があってもいいよな」という気持ちが最初にあって、そこからエルガストルムという街では、いかなる障害、人種、性自認、背景を持つキャラクターであっても、それ自体はどうでもよく、「みんなが混じって何とかうまく暮らしているのが当たり前」という世界観に落ち着きました。これからも、キャラクターたちがそういう「どうでもいい」生き方をしている姿を大切に描いていけたらと思っています。
――ちなみに、長く作品と向き合うなかで、当初と印象が変わったキャラクターはいらっしゃいますか?
コースケ:マルコ・アドリアーノですね。アニメ化の影響でスケジュールが過密になり、体調もどんどん悪化していた時期に、さらに大人の事情で描かなければならないことがいろいろ重なってしまって。その結果、一時期はマルコ・アドリアーノのアンチになりました。ばかやろうがよ。
何度も読み返すうちに味が出る、“スルメみたいな漫画”を目指して
コースケ:ハリウッド映画によくある「外国人が考えたトンチキな日本」の逆パターンをやっているような感覚だったので、海外で受け入れられるとは思ってもいませんでした。日本でも、こういう作品はもう食傷気味だろうし、連載も3巻くらいで終わるだろうと高を括っていたので、今でもずっと困惑しています。本当に、なんでなんでしょう。でも、とてもありがたいことです。
――今回の連載再開を機に、改めて作品を読み返す方や、初めて『GANGSTA.』に触れる方も多いと思います。そうした読者の皆さんに、「ここを楽しんでほしい」というポイントがありましたら教えてください。
コースケ:何度も読み返すうちに味が出てくる、スルメみたいな漫画を目指しています。登場人物の表情や視線の動きだったり、服装や髪型だったり……。本筋とはあまり関係なさそうな部分にも目を向けてもらえると、いろいろな発見があって楽しんでいただけると思います。
――これから先、作家として挑戦してみたいことや、描いてみたいテーマがありましたら教えてください。
コースケ:キャラクターデザインの仕事をもっとしてみたいです。モキュメンタリーやファウンド・フッテージ系のホラーが好きなので、いつかホラー漫画にも挑戦してみたいですね。悪役令嬢ものも楽しそうだなと思っています。
――ご体調とも向き合いながら歩みを進める『GANGSTA.』ですが、最後に作品を待ち続けている読者の皆さまへメッセージをお願いいたします。
コースケ:今後も連載や新刊をお待たせしてしまうことがたくさんあると思いますが、気長にお待ちいただけたらうれしいです。筋トレがんばるので、推しが死んでも読むのやめないで!
■関連情報
『GANGSTA. 9』
著者:コースケ
価格:814円
発売日:2026年8月7日
出版社:新潮社