『スーパーマン/スパイダーマン』クロスオーバーの背景は? フェーズシックス出版が仕掛ける、アメコミの新潮流

 数多くの名邦訳コミックを世に送り出してきた小学館集英社プロダクション(ShoPro)が、マーベル・コミックスとの独占契約を2026年3月31日に終了した。ShoProはマーベル以外にも、『ウォッチメン』などの名作も刊行してきた日本におけるアメコミ界の大手だ。

 これまで国内では「アメコミを読みはじめるなら、まずはShoProから」という流れがあったほど、ShoProは多くの読者にとってアメコミの“入り口”を担っていた。DCコミックスやMARVELウルトラマンシリーズなど、その他のアメコミ作品は販売を継続するが、マーベルの新規読者獲得に与える影響は無視できない。

 しかし、この空白を活かす企業も現れた。フェーズシックス出版が10周年を記念し、「OPERATION X6」を始動。これまでアメコミ版「ゴジラ」「プレデター」「ミュータントタートルズ」などのシリーズ邦訳を手掛けてきた経験を活かし、新規読者でも楽しめる“入口”を提供することになった。市場は転換期——新しい“フェーズ”に突入したのである。

“履修”が前提となったアメコミ映画

 この転換期は映画業界にも起きている。MCU(マーベル)の『アイアンマン』(2007)からはじまった“ユニバース”展開ブームは、複数の映画が一つの世界観を共有するという潮流を生んだ。

 しかし、気がつけば世界観は複雑化していった。結果として、「Aを理解するにはBとCも観ないと……」と、もはや履修必須の状態になってしまった。世間からはアメコミ疲れ、食傷気味との声も聞こえる。それでは、アメコミの時代は去ってしまったのだろうか。

 その一言で片づけるのは早計だ。DCスタジオはジェームズ・ガン監督を中心に複雑化してしまったユニバースをやり直すことを決めた。その映画第1弾として公開された『スーパーマン』は2025年世界興行収入TOP10入りを果たした。

 MCUも、新スパイダーマン三部作の第1弾『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』を2026年7月31日に公開することを決定。その予告編は公開24時間で7億回再生を突破している。アメコミヒーロー映画は、邦訳市場と同じく新しい“フェーズ”に突入しているのだ。

クロスオーバーが生まれる理由

 市場の変化を受けて、フェーズシックス出版は DCコミックスとマーベル・コミックスというアメコミ界の二大巨頭のクロスオーバーを出版する。その第1弾として発表されたのが『スーパーマン/スパイダーマン』だ。

 スーパーマンは昨年、デヴィッド・コレンスウェットが演じた姿が記憶に新しい。スパイダーマンも今年、トム・ホランド主演の最新作が公開される。表の顔は記者だが、本当の姿は悪と戦うスーパーヒーロー。そんな共演がコミックスで実現しているのだ。

 『スーパーマン/スパイダーマン』は映像作品を通じて広く知られたキャラクターが主人公になっているため、これまでのアメコミ文脈を知らなくても楽しめる。第2弾も同じく有名なバットマンとデッドプールがクロスオーバーする。いわゆる“履修”をせずに、アメコミを楽しめるのだ。

 このようなクロスオーバーが可能になった背景には、単に映画でキャラクターが世間に浸透しているだけでなく、近年の“マルチバース”展開により「別時空のヒーロー同士の共演」に観客が慣れたこともあるのではないだろうか。アメコミ疲れがかえって、異なるIP同士の違和感を薄める効果を生んでいるのだ。

 またフェーズシックス出版は、6月公開の映画最新作『スーパーガール』に合わせ、原作コミック『スーパーガール:ウーマン・オブ・トゥモロー』の刊行も予定している。映画をきっかけに原作コミックに手を伸ばす――そうした新たな“入口”も広がりつつある。

“履修”しなくてもいい“入口”の誕生

 こうして、複雑化してきたアメコミ界は整理され始めた。それにより、新規読者や観客にとって新しい“入口”を提供できるようにもなった。コミックスも、映画も、シリーズすべてを追わなくても興味のあるエピソードからはじめることができる環境が整いつつある。

 ShoProの契約終了は衝撃的だったが、その空白を埋めるように若い企業が参入し、アメコミは新たな“フェーズ”に突入した。そうして、文化としてのアメコミは「知らなければ読めないもの」から「知っているところから楽しめるもの」へと変化しはじめている。


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