『BTOOOM!』『怪獣自衛隊』漫画家・井上淳哉が語る、コミックバンチとの出会い「運命共同体として一体感を感じています」

 「コミックバンチ」25周年を記念する本特集。今回は、「週刊コミックバンチ」時代から同誌をよく知る、漫画家の井上淳哉氏のインタビューを掲載。週刊誌から月刊誌へ、そして、ウェブ漫画誌へと“進化”してきた「コミックバンチ」と、自身の代表作である『BTOOOM!』、『怪獣自衛隊』について、ざっくばらんに語っていただいた。(島田一志)

ゲーム業界から漫画家へ

『BTOOOM!(1)』

――井上先生はもともとゲームの世界でデザイナーとして活躍されたのち、漫画家に転身したというやや特殊な経歴をお持ちですが、まずは「週刊コミックバンチ」で、『BTOOOM!』の連載が始まった経緯をお聞かせください。

井上淳哉(以下・井上):もともと漫画家になる夢をもって田舎から上京し、専門学校に通ったのですが、すぐにデビューは難しいと気づきました。生活もあり、ゲームも好きだったので、まずはゲーム業界に就職し、スキルを身につけてから漫画家になる道を選びました。

 ゲーム業界で10年過ごし、当初勤めていた会社で自分の限界を感じたため、2001年に退社、当時声をかけていただいていたワニブックス社で連載を始めました。意外にもすんなり漫画家にはなれたのですが、それで食べていくには本物の漫画スキルを身につける必要があり、後戻りのできないプレッシャーの中、ネーム力を磨く努力をしました。

 そんな中、2003年頃だったと思いますが、後に「月刊コミック@バンチ」の初代編集長となる里西(哲哉)氏に声をかけていただき、連載が完結するのを待っていただいていました。

 5年後、ようやく「バンチ」での連載が動き出すのですが、雑談の中、「インベーダーをリアルにしてはどうか?」とか「ボンバーマンはどうか?」とか話していたところ、海外ドラマ『LOST』のように無人島でボンバーマンをやったら面白そう!と閃き、『BTOOOM!』の輪郭が固まっていきました。

「バンチ」編集部は運命共同体

――その後、『BTOOOM!』の連載途中で「週刊コミックバンチ」が休刊。『BTOOOM!』の連載は、新たに新潮社が自社で編集する(※)「月刊コミック@バンチ」(2011年創刊/2018年に「月刊コミックバンチ」に改題)に移籍しました。この時、完全に井上先生は「コミックバンチ」の看板作家になったといっていいと思います。「@バンチ」創刊号の表紙も『BTOOOM!』でしたね。(※「週刊コミックバンチ」の編集は、新潮社ではなく、別会社のコアミックスが請け負っていた)

「月刊コミック@バンチ」創刊号

井上:週刊時代の看板作家だった先生たちがいなくなった状況で、自分が矢面に立つという不安はありました。自分は新卒で入社したゲーム会社が2年でつぶれる経験をしているので、「また母屋を失うのか?」と焦り、ただ言われたことだけをやるだけじゃだめだと思い、『BTOOOM!』の掲載ページを増やしてもらったり、新企画『妖怪HUNTER』(原作・諸星大二郎)を同時連載したり、人一倍がんばらないと大変なことになる……と、がむしゃらになっていました。

『妖怪HUNTER』

――新しくなった編集部の印象をお話しください。

井上:雑誌を軌道に乗せるため、人一倍動いたせいか、編集部が近くなった印象で、運命共同体として一体感を感じています。思いついたことをすぐ提案して、編集者にしてみれば迷惑な作家だったかもしれませんが(笑)。ただ、いまも変わらず編集部はフットワークが軽く、大手に出来ないことをやろうとしている気概があるので、僕としてはとても仕事がしやすいです。

――結果的に『BTOOOM!』は、単行本で全26巻という壮大な物語になりました。また、スピンオフやアニメ作品なども作られ、多くの読者に愛される作品になりました。いま振り返ってみて、『BTOOOM!』は、井上先生にとってどういう作品でしたか?

井上:人生をかけた作品になったと思います。10年間+αのゲーム業界での経験がなければ、とても描けない作品でしたし、漫画の技術もそこそこ慣れてきて、人生で一番脂ののった時期に、経験したすべてを注ぎ込んだ作品なんだと感じています。

「リアルな怪獣モノ」を目指した『怪獣自衛隊』

『怪獣自衛隊(1)』

――ここからは『怪獣自衛隊』について伺いたいと思います。この作品のアイデアはもともと温めていたものでしたか? 

井上:子供の頃から怪獣特撮モノが大好きだったことがありますが、ませた子供だったので、怪獣にリアルを求める傾向にあり、『ゴジラ』(1984年版)、『ゴジラVSビオランテ』や「平成ガメラシリーズ」などを好んでいました。ただある日、先輩(女性)にこれらを勧めたところ、「また着ぐるみのプロレスごっこ?」と言われて、とても悔しい思いをしました。どこか特撮に対する愛情フィルターを持ってないと、楽しめないジャンルになっていたんですね……。

 そんな時、『シン・ゴジラ』を観て度肝を抜かれたんです。「これならプロレスごっことは言われない究極のリアルだ!」と感動しました。ただやはり、名作1作では満足できない。このレベルでのリアルな怪獣をもっと見てみたい。じゃあ自分で描くしか……。ということで、『怪獣自衛隊』の骨格が固まっていきました。“リアルボンバーマン”もそうですが、僕はなんでもリアル表現を求めるようですね。

――個人的に面白いと思ったのは、通常、漫画でも実写でも怪獣モノの作品では、「自衛隊」という存在は、怪獣に全く歯が立たない“やられ役”である場合が多いですよね。主人公のヒーロー(ウルトラマンなど)や、天才科学者が発明した新兵器などを際立たせるための存在といいますか……。ところがこの漫画では、その自衛隊が主人公だったので、かなり驚きました。

井上:子供の頃、自衛隊や科学特捜隊が怪獣をなかなか倒せないことに苛立ちを感じる子供だったんですよ。まるで「リアルな努力は前座に過ぎない」と言われているような……。たまに科特隊が怪獣を倒すと、メチャクチャ嬉しかったりしました(笑)。そんな個人的なツボが前提にあったと思います。

 あと、怪獣というフィクションに対して、もう一つ別のフィクションを重ねることにリアルを感じなかったという思いもあります。それに、ミサイルや魚雷が当たってビクともしない怪獣もリアルと思えませんでした。そんなリアルを求めるくせに怪獣は見たいという矛盾した思いの中、到達したのが『怪獣自衛隊』なんです。

キャラクターの「変化」を描く

――『怪獣自衛隊』は、連載途中で掲載誌が紙の雑誌からウェブ雑誌(「コミックバンチKai」)へと移籍しました。月刊ペースから週刊ペースになり、また、初出がデジタル媒体での連載ということで、漫画表現の面などで変化はありましたか?

井上:地味ですが、少しだけ読み口を変えました。ひと月ぶん丸まる読む満足感も大事ですが、どんどん物語を流して勢いをつけながら「引き」を作るという週刊連載特有のテンポにシフトチェンジしています。まだまだ模索中ですが、できるだけ自分も毎週に分けて読むようにして、ワクワクをどう感じるのかを手探りしている最中です。

――気に入っているキャラクターを教えてください。

井上:長いスパンをかけて成長を描いたり、主人公の行動で主張を変化させるキャラが好きですね。たとえば、『BTOOOM!』の坂本は、最初は殺し合いとは無縁のゲームの世界で「殺せ殺せ」と相手プレイヤーに言い放っていたり、自分さえよければいいという発想でいたのに、徐々に人の気持ちがわかっていき、皆を守りたいという発想になり、人のために死ぬという選択にまで至る。それがいいとは言いませんが、気持ちの変化を描くのが好きで、その役目を持ったキャラが好きです。ヒロインのヒミコは、最初は極度の男性嫌いでしたが、坂本の気持ちを知って、心も身体も許していくとか……。

 『怪獣自衛隊』で言えば、古井沢事務次官は、最初は嫌なヤツだったのに、徐々に主人公(このえ)の考え方や実力を認めるようになり、助け舟を差し出すまでになる。このような「変化」を描けるキャラが好きです。

――リアルな怪獣の造形(デザイン)が秀逸ですが、アイデアはどこから?

井上:ベースとなる生き物を考えるところから作っています。「オロチ」ならシャコガイの顔に、フジツボなどの磯の生物的な表面処理。「ヒルコ」なら古代の歯鯨類。他にも甲冑魚・ダンクルオステウスや哺乳類の始祖・ゴルゴノプスなど、実際にいた面白い特徴を持った生物がヒントになっています。

――先ほど話に出た、「自衛隊が主人公」という切り口は、ある意味では、「特殊な能力を持ったスーパーヒーローではない、普通の人間(たち)が主人公」ということでもありますよね。実際、主人公のこのえなどは、プロローグの時点では「普通の女の子」でしたが、怪獣と戦うことで「強い女性」に成長していきます。その姿に多くの読者は感動ないし共感できるのだと思いますし、従来の「怪獣モノ」にはあまりなかった新しさもあったのだと思います。強いて言えば、先ほどおっしゃった『シン・ゴジラ』に出てくる政治家たちの姿が近いのかもしれませんが……。

井上:リアルな描写を目指すと、荒唐無稽なキャラ表現に頼れないところがありますので、「誰でもこのえになりうる」という範疇で主人公像を作りました。しかし、あまりにも「普通の人間」だと怪獣と戦うリアルがなくなるので、その辺は共著(企画協力)の白土(晴一)氏に助けてもらいつつ、固めていっています。

――このえの成長とともに、「価値観の違う者同士が、共通の目的に向かうことでわかり合っていく姿」も丁寧に描かれていますよね。ウクライナや中東など、世界各地で戦争・紛争が絶えないいま、井上先生が作品に込めている想いをお聞かせください。

井上:自衛隊も戦車も戦闘機も好きですが、リアルな戦争だけは好きになれません。なのに、怪獣という災害なら、世界中の「暴力(あえて)」が感動的に描けるという奇跡があると思うんです。「怪獣モノ」というジャンルの持つ不思議な可能性が、僕には神秘的に感じられます。

「ハード」に魅力がなければ、面白い「ソフト」は生まれない

――それでは最後に、井上先生にとって、「雑誌」(紙・ウェブ問わず)というメディアの存在価値について教えてください。

井上:「雑誌」とは、僕にとってはゲームにおける「ハード」です。つまり、「ゲーム機本体」みたいなものです。魅力のあるゲームハードによくできたゲームソフト。このどちらが欠けても成立しないし、ハードによってお客さんも違うし、ソフトがハードを盛り上げる面もある。ゲーム業界出身のせいか、そう考えてしまいます。

 お店と商品の関係にも似てますね。人は倉庫からモノを買うわけではないので、魅力的なお店=雑誌でステキに紹介してもらって、そこで面白いものを描いていきたいです。(2026年4月収録)

■関連情報
『BTOOOM!』と『怪獣自衛隊』はコミックバンチKaiにて掲載中!

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