若林踏の文庫時評

【若林踏の文庫時評】松田優作主演の伝説的ドラマ小説版から「このミス」1位の注目作まで

小鷹信光『探偵物語』(創元推理文庫)

 2026年2月後半(2/15~2/28)発売の文庫新刊において、メディア化関連作品で注目すべきは小鷹信光『探偵物語』(創元推理文庫)だろう。メディア化といっても今期のドラマや公開を控える映画ではない。伝説の俳優・松田優作の主演で1979年~80年に放送された「探偵物語」を、原案者である小鷹信光が自ら手掛けた小説版である。

 小鷹はいわゆる“ハードボイルド”と呼ばれる犯罪小説研究の第一人者であり、ダシール・ハメットをはじめとする海外犯罪小説の翻訳者だった。今回は1998年に幻冬舎文庫から刊行された文庫を、ミステリ研究家の小山正による詳細な解説を付して復刊したもの。小鷹信光は2015年に逝去しているが、日本の犯罪小説史に残した足跡の1つを新たな世代にも知って欲しい。

馬伯庸の『両京十五日1 南京脱出』(齊藤正高、泊功訳)

 賞やランキング関連では馬伯庸の『両京十五日1 南京脱出』(齊藤正高、泊功訳)を挙げておきたい。『両京十五日』は「このミステリーがすごい!2025年版海外編」の第1位を獲得した作品で、このたびハヤカワ文庫NVにて分冊され、4か月連続で刊行される。

 何者かに命を狙われている明の皇太子が、父の危篤の知らせを受けて首都・北京へと戻ることを決める。陰謀が渦巻く道中を、皇太子は数少ない仲間と力を合わせながら進んでいく、という正攻法の冒険小説だ。活劇やスリラーのツボを押さえながら、読者が驚くような展開も用意して満足させる、非常に恰幅の良い娯楽作品である。

 なお、馬伯庸の作品は3月26日に文藝春秋より『長安のライチ』(池田智恵・立原透耶訳)が刊行予定だ。こちらは1月に日本でも公開された映画の原作になっており、馬作品への注目は今後ますます高まりそうな気配である。

神永学『ラザロの迷宮』(新潮文庫)

 もう1冊ご紹介するのは神永学の『ラザロの迷宮』(新潮文庫)。神永といえば<心霊探偵八雲>シリーズに代表されるように、個性際立つキャラクターが登場するシリーズもののミステリを思い浮かべる読者も多いだろう。

 だが、この『ラザロの迷宮』はノンシリーズ作品に該当し、シリーズキャラクターが出てくる他の神永作品とは異なった味わいがある。本書は湖畔にある洋館で繰り広げられる殺人劇を描くパートと、記憶喪失の男を巡る刑事の姿を描くパートが書かれている。巧みな仕掛けで読者を翻弄するタイプの小説で、神永が技巧で読ませる力があることを十分に示した一作であると言える。

■書誌情報
『探偵物語』
著者:小鷹信光
価格:1,210円
発売日:2026年2月27日
出版社:東京創元社
レーベル:創元推理文庫

『両京十五日 1: 南京脱出』
著者:馬伯庸
翻訳:齊藤正高、泊功
価格:1,320円
発売日:2026年2月18日
出版社:早川書房
レーベル:ハヤカワ文庫NV

『ラザロの迷宮』
著者:神永学
価格:1,265円
発売日:2026年2月28日
出版社:新潮文庫
レーベル:新潮文庫

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