木根尚登×鈴木おさむ対談 TMNETWORK小室哲哉の引退宣言、その裏で何が起きていた? 新刊ドキュメンタリー小説が描いた舞台裏
TMNETWORKは、なぜ「再始動」できたのか。木根尚登によるドキュメンタリー小説シリーズ『電気じかけの予言者たち』は、30年以上の時を経て第7作『電気じかけの予言者たち -再起動編-』へと到達した。本作は、2018年の小室哲哉による引退表明を起点に、コロナ禍、無観客ライブ、40周年ツアーという激動の数年間を、「記録」ではなく「小説」という形式で描き出す一冊として話題となっている。
今回、TMNETWORKのファンを公言する鈴木おさむ氏とのスペシャル対談が実現。中学生時代、テレビで見た「自動で音が奏でる」TMNETWORKの衝撃。ロック全盛の80年代に、異物のように響いたデジタルサウンド。『CAROL ~A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991~』が先取りしていたメディアミックス的発想。そして、再起動を繰り返しながら、なぜTMNETWORKは続いてきたのか、かねてからの疑問をぶつける。
話題は『電気じかけの予言者たち -再起動編-』で描かれた、引退が現実の選択肢として語られた会議室の空気、LINEに残された言葉、そして「再始動」という言葉が持つ重みへと向かっていく。辞めることは終わりではない。再起動とは、整理であり、更新でもある。本対談は、TMNETWORKというグループの物語であると同時に、長く創作を続けるための思考の記録でもある。
未来の音が鳴った瞬間
新刊小説の話からTMNETWORKが日本の音楽史に果たした役割や小室哲哉氏の引退に関してまで、熱いトークが展開された。
ーー鈴木おさむさんがTMNETWORKに出会ったのは、いつ頃だったのでしょうか。
鈴木:中学1~2年くらいですね。感覚的には1984年から85年頃だったと思います。当時、テレビの音楽番組で「もうすぐブレイク」みたいなコーナーにTMNETWORKが出てきた。そのときの衝撃はいまでもはっきり覚えています。
ーーどんな衝撃だったのですか。
鈴木:まず、キーボードの数ですよね。とにかくいっぱい並んでいたのにはびっくりしました。しかも、小室さんが弾いていないのに音が奏でられている。「え、どういうこと?」って。演出とかパフォーマンスというより、純粋に「未来に触れた」という感覚でした。
ーー当時は、つくば万博の時代でもあります。
鈴木:そうなんです。85年のつくば万博は、「未来を見せる」イベントだったんです。3D映像のパビリオンがあったり、ソニーの巨大なテレビがあったり、「未来はこうなるんだ」という空気に包まれていた。そのタイミングでTMNETWORKが出てきて、「あ、未来ってこういう音が鳴るんだ」って、体で理解した感じがありました。
ーーその後、すぐに音楽としても追いかけるように。
鈴木:はい。すぐアルバムを買いました。当時はソニー全盛期で、たしか僕が中1のときに渡辺美里さんの「My Revolution」が出て、小室さんの名前を初めて強く意識したんです。「あ、この人が作ったグループなんだ」って。
ーーその後「Self Control(方舟に曳かれて)」がヒットし、「Get Wild」へとつながっていく。
鈴木:だから「Get Wild」が大ヒットしたときは、正直「遅いよ」って思ったくらい(笑)。僕の中では、すでに決定的な存在になっていたので。でも、そこからTMNETWORKが国民的な存在になっていく過程を見られたのは、すごく幸運だったと思います。
木根:そう言ってもらえるのは、本当に嬉しいですね。
ロック全盛の80年代・異質なTMNETWORKの魅力
ーー80年代半ばは、いわゆるバンドブームの時代でした。
鈴木:そうですね。BOØWY、ザ・ブルーハーツ、REBECCAが第一陣で、少し遅れてX(現X JAPAN)が出てくる。ロックが完全に時代の中心にあった。その中でTMNETWORKの音は、明らかに違う場所から鳴っていました。
木根:当時は「ロックじゃない」と言われることも多かったですね。BOØWYは男のファンが多くて、TMは女の子が多い、といった具合に語られることもあった。
鈴木:でも僕は、その「ロックじゃない」と言われていた部分にこそ惹かれていました。ロックの熱量の中に、デジタルな音が混ざることで、音楽の地図が一気に広がった感覚があったんです。高校の近くのCDショップに予約して、発売日に取りに行ったのを覚えています。当時、僕の地元の先輩がX JAPANのYOSHIKIさんで、ものすごくリスペクトしていたんです。だからロックに行かなきゃいけない、みたいな空気もあった。その一方で、TMNETWORKはまったく違う「デジタルの世界」に連れていってくれる存在だった。
木根:ユーロビートが流行っていた時代でもありましたよね。ストック・エイトキン・ウォーターマンのサウンドとか。
鈴木:そうです。僕はカイリー・ミノーグとか、ストック・エイトキン・ウォーターマンのプロデュース作品が本当に好きで。小室さんの音楽には、そこに通じるものを感じていました。
ーー音楽性だけでなく、キャラクターの見え方も独特でした。
鈴木:木根さんがラジオ番組を始められたり、オールナイトニッポンでの人間性が見えてくる感じもすごく良くて、こんなに面白い人なんだって。音楽と木根さんのキャラクターのバランスに、すごく惹かれていました。
木根:当時は、ミュージシャンが小説を書く、というのも珍しい時代でしたよね。
鈴木:そうですよね。エッセイはあっても、小説は少なかった。その中で木根さんの小説でありTMNETWORKのアルバムタイトルでもある『CAROL』という作品は、完全に別次元でした。
『CAROL』は「物語としての音楽」の最初期だった
ーー1988年に発表されたアルバム『CAROL』は、いま振り返っても特異な作品です。
鈴木:衝撃でした。いまで言えば「コンセプトアルバム」「メディアミックス」と言えますけど、当時はそんな言葉が一般的じゃなかった。物語があって、本があって、音楽があって、ライブはミュージカル仕立て。「こんなことをやっていいんだ」と思わせてくれた作品でした。
木根:『CAROL』は小室さんのアイデアが大きかったですね。TMNETWORK自体が、最初から「新しいことをやる」前提で作られたグループだった。曲を書ける人間が2人いて、演奏はコンピューターで行う。完璧な演奏力より、構造や発想を優先する、という考え方です。
ーー制作環境も、いまとはまったく違っていました。
木根:音楽の編集でも現在ほどの編集機能がない時代ですからね。1曲作るのに手間と時間がかかる。その作業をしながら、音だけじゃなく、ビジュアルや物語、ライブの見せ方まで考えていく。『CAROL』は、そうした発想の集大成でした。
鈴木:後年、SEKAI NO OWARIのライブを見たときに、「これ、源流はTMNETWORKだな」と思いました。表現って、ちゃんと巡っていくんですよね。
引退宣言、会議室の出来事
鈴木:『電気じかけの予言者たち -再起動編-』はとても読み応えがありました。読んでいて驚いたのは、小室さんの引退宣言について語られる会議室の場面です。普通ならピリついた緊張感があるはずなのに、そんな雰囲気がないんです。
木根:かなり実感に近いですね。3人ともお互いに怒ったことがないし、言い合ったこともないんです。
ーーその関係が読んでいても伝わってきます。
木根:引退、解散、休止。どれも現実的な選択肢だった。でも最終的に「解散しよう」という結論にはならなかった。
鈴木:それは、なぜだったのでしょう。
木根:たぶん、「終わらせる理由」よりも、「まだ続けられる余地」が残っていると感じていたからだと思います。それに、3人とも怒り合って終わる関係じゃなかった。関係が壊れていたら、再起動なんてできないです。
鈴木:本を読んでいて感じたのは、「終わらなかった」というより「終われなかった」という印象を受けました。
木根:終わろうと思えば、いつでも終われたかもしれない。でも一番居心地が良いのは、TMNETWORKなんです。何があっても受け入れてくれるんじゃないかっていうような、家族というような存在なのかもしれないですね。
ーー外から見ると、かなり張り詰めた空気を想像してしまいます。
鈴木:本にも書かれていますが、そんな場面でも木根さんは、ボケたり笑わせようとしているじゃないですか。「いまそれ?」みたいな冗談を言えちゃうのは驚きました。
木根:例えばアルバムのタイトルを決めるときも、100のうち99がふざけた名前を考えている。でも3人でそれを言い合うのが楽しいわけですよ。笑いながら冗談を言い合って。もちろん真面目に打ち合わせをすることもありますけど、空気感っていうのがデビューからずっと変わらない。たぶんノリが一緒なんでしょうね。
ーー『電気じかけの予言者たち -再起動編-』を読んでいると木根さんはムードメイカーのように思いました。
木根:僕はもとからそんな性格なんですね。狙ってるというよりは自然と出ちゃう。小室さんも本当は面白い人だけど、みんながそうやったらお笑いトリオのようになっちゃうから。僕とウツが場を和ませることが多いですね。
「辞める」ことでしか見えないものがある
ーー鈴木さんご自身も、放送作家という立場から「引退」を経験されています。その視点から見ると、小室さんの引退表明はどのように映っていましたか。
鈴木:ものすごく、小室さんの気持ちがわかりました。僕自身も、放送作家をやっている中で、「もう辞めたいな」「一回ここで線を引きたいな」と思った瞬間が何度もあったからです。
ーー「辞める」という言葉は、ときにネガティブに受け取られがちです。
鈴木:でも、実際に辞めてみて思ったのは、「辞める」って終わりじゃないということでした。むしろ、一度ちゃんと線を引くことで、見えてくるものがある。それまで抱えていたモヤモヤや、義務みたいになっていたものを整理できるんです。
小室さんの引退発言も、僕には「投げ出した」というより、「リセットしたかったんだろうな」と感じました。責任も、期待も、全部背負ってきた人だからこそ、「一回終わらせたい」という気持ちになるのは、自然だと思います。
ーー引退することで、次のステップが見えてくる。
鈴木:僕の場合、放送作家を辞めると決めたことで「本当は何をやりたいのか」「何を続けたいのか」が、初めてはっきりしました。辞めなかったら、たぶん見えなかった。
だから、小室さんが「引退」という言葉を口にしたこと自体が、次につながる行為だったんじゃないかと思うんです。一度電源を落とすからこそ、再起動ができる。ずっと走り続けていたら、次の景色には行けない。
木根:すごくわかります。
鈴木:辞めるって、勇気がいるし、怖いです。でも、辞めることで初めて「またやりたい」と思えることもある。だから僕は、引退って「終わり」じゃなくて、「次に行くための整理」なんだと思っています。小室さんの引退も、結果的にTMNETWORKがもう一度集まるための、大事なプロセスだった。そう考えると、この書籍の『再起動編』というタイトルは、本当にぴったりだなと思いました。
木根:その通りですね。
「曲が作れなくなる夢」
ーー木根さんは長年、小室さんの一番近くで創作を見てきた存在ですが、引退に至るまでの過程で、印象に残っているエピソードはありますか。
木根:「突然、曲が作れなくなる夢を見た」って言うんです。目が覚めたときに、とにかく怖かった、と。
鈴木:小室さんにとっては相当怖いですよね。
木根:小室さんは、余裕があって、次から次へと曲を生み出す人に見えるじゃないですか。でも実際は、「作れなくなったらどうしよう」という恐怖もあったのだと思います。
ーーそれは、長く第一線で走り続けてきた人だからこその不安でもありますね。
鈴木:才能がある人ほど、その喪失を恐れる。
木根:「曲が作れなくなる」ということは、小室さんの場合、自分の存在そのものが揺らぐ感覚だったんだと思います。だからこそ、常に何かに追われるように作り続けてきたし、同時に、その反動として「もういいかな」「一回止めたい」という気持ちが生まれたんじゃないかと。
ーー引退表明も無関係ではない。
木根:突然の思いつきではなくて、長い時間をかけて積み重なってきたものだと思います。作り続けることへのプレッシャー、期待され続けることへの重さ。それらが全部重なったところで、「一度、電源を落としたい」という気持ちになった。
鈴木:引退って自分を守るための選択でもあるかもしれないですね。
LINEに残された言葉
ーー今回の『再起動編』では、LINEに残されたやりとりも重要な役割を果たしていますね。
木根:正直、執筆の際にはかなり助けられました。これまでのシリーズは記憶を辿って書く部分が多かったけれど、今回は言葉そのものが残っていたので。今回の小説には、当時のまま載せているところもあります。
ーー紙面の中ではLINEのやりとりがよいアクセントになっていますね。
鈴木:第三者が書いた記録ではなく、メンバー自身が書いているからこそ、残る温度がありますよね。
ーー本の中で、読者の印象に強く残るのが、木根さんが引退表明後に小室さんの家を訪ねる場面です。
鈴木:あれは強烈でした。引っ越したばかりの家に行ったら、まず違和感があった。「あれ、楽器がないな」って。
木根:「何か気がつかない?」って聞いてきて。本人は、いつも通り淡々としていましたね。音楽の話になるかと思ったら、当時できたばかりのUber Eatsの話を延々とする(笑)。餃子の王将もあるよって、巨大な2画面にメニューが映る。あの頃の小室さんは、完全に音楽を遮断していました。でも、漂っている空気感はどこか昔の学生時代に戻ったみたいでした。
鈴木:友達の家に行って、「あれギターなくない?」って言う感じですよね。あのやり取りを見て、TMNETWORKって、結局こういう関係なんだなと思いました。
木根:重たい話をしているはずなのに、空気はどこか軽い。それが、3人の関係性なんだと思います。
コロナ禍と無観客──時代が入り込んだ物語
ーー『再起動編』には、コロナ禍の空気も色濃く描かれています。
木根:今回は、どうしても時代の話を抜きに書けなかった。無観客ライブは、本当に特殊な体験でした。
ーーどんな感覚だったのでしょう。
木根:音は鳴っているのに、返ってくるものがない。拍手も歓声もない空間で演奏するというのは、想像以上に不思議な感覚でした。あの時間は、たぶん一生忘れないと思います。
鈴木:読んでいて、「ああ、あの時間をみんなで通過したんだな」と感じました。
木根:40周年をやりながら、同時にコロナ禍を生きていた。だからこの本は、回顧であると同時に、「この数年をどう通過したか」の記録でもあります。
音楽史においても貴重な資料
ーー昨年ガンダムの最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』で「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」が挿入歌として使用されたことは大きな出来事でした。
鈴木:観たときは、本当に驚きましたね。
木根:僕もオンエアの瞬間は知らなかった。後から聞いて、「あ、そうなんだ」という感じでした。
鈴木:観ていて思ったのは、究極の二次創作だということ。ガンダムを愛した人が、一度すべてを解体して、もう一度いまにつなげ直す。その最後に「BEYOND THE TIME」がかかる。いまのTMNETWORKの状況とも、すごく重なっていると感じました。
ーー最後に、『電気じかけの予言者たち -再起動編-』を一言で表すなら。
木根:一言でいうと好きなものを、好きな形で残した本ですね。若い頃は思わなかったことでも、年を重ねることで、いろんなことに感謝するようになるじゃないですか。この本を書いたことで改めて気づいたのは、TMNETWORKの3人で本当に良かったということです。たぶん昔なら恥ずかしくて言えなかったことですけど(笑)
鈴木:TMNETWORKの裏側を知ることができる本であると同時に、人生における「辞めること」「続けること」「もう一度始めること」を考えるための本だと思います。年を重ねても、いつでもワクワクしていい。そのことを肯定してくれる一冊です。
木根:これまで出した『電気じかけの予言者たち』は、いつも音楽ライターの藤井徹貫さんに執筆を手伝ってもらっていたんです。本にも書いているけれど、突然彼が死んでしまった。もうこれは一人では無理、書けないって最初は思っていたんですね。でもある出来事から、彼のためにも書かなくちゃと思えるようになって、完成することができた。これはものすごく大きなことで。だから今回の本は藤井徹貫さんにも捧げている本ですね。
ーーあとがきの藤井さんへの思いはとても心に響きました。
鈴木:僕はいろんな人の自伝を読むのが好きなんですね。海外だと自伝はたくさんあるけれど、日本人の自伝ってあんまり多くはない。『電気じかけの予言者たち -再起動編-』はドキュメンタリー小説ではあるけれど、木根さんという当事者が書いていることがとても重要だと思いますし、音楽史においても貴重な資料になる内容です。
木根:ありがとうございます。そうなってもらえたらとても嬉しいですね。
■書誌情報
『電気じかけの予言者たち -再起動編-』
著者:木根尚登
価格:3,080円
発売日:2025年12月1日
出版社:リットーミュージック