「週刊現代」なぜ高齢男性向け雑誌からリニューアル? 業界最年少37歳の新編集長・臼杵明裕が目指すもの
2025年12月、講談社の老舗週刊誌「週刊現代」に新編集長の臼杵明裕氏が就任した。37歳という異例の若さの新編集長は、Xに「2025年、週刊現代は大きく変わりました」と宣言する長文ポストを投稿。
「記事内容、表紙&誌面デザインを全面リニューアル。従来の『高齢男性読者』だけに特化した内容から、もちろん女性も含めて、広い世代の読者が楽しめる誌面に」とのことで、具体的には「『週刊現代といえばヘアヌード』から脱却」、「『死ぬまでセックス』といった名物企画も(中略)メディアとしての可能性を狭めてしまいかねない」などが掲げられ大きな反響を得ていた。
なぜ「週刊現代」は方針転換を図ったのか。これからどのような雑誌になっていくのか。新編集長はどんなひとなのか。本人に直接聞いた。(取材日時:2026年1月29日)
臼杵新編集長の履歴
――まずは臼杵さんの経歴を教えてください。
臼杵:2011年に新卒で講談社に入社し、まず「週刊現代」に配属されました。「週刊現代」ではそれぞれの編集者がいろんなジャンルの記事を担当していて、ぼくもそうだったのですが、徐々に政治や医療がメインになっていきましたね。その後2017年に「現代ビジネス」に異動し、しばらくウェブ記事専業の編集をしていました。2020年に「週刊現代」に戻って、2025年12月に編集長に就任しました。なので、一貫してノンフィクションやジャーナリズムの仕事をやってきたことになります。
――入社時はどの部署を志望していましたか。
臼杵:学生時代の志望はファッション誌でした。「HUgE」という当時の講談社で唯一残っていた男性ファッション誌を愛読していたので、そこで働きたいですと。ただ、あとから知ったのですが、「HUgE」の編集部はとても小さく、新入社員の配属は無理だと言われました。なので、新書がやりたいですと志望を変えました。いずれにせよ、マンガ・小説などのフィクションか雑誌・学術書・新書などのノンフィクションかという大きな括りだとノンフィクションなので、それでまずは「週刊現代」に配属されたという流れです。
――2011年入社ということは、東日本大震災の直後に週刊誌に配属されたわけですね。いきなり大変だったのではないですか。
臼杵:そうですね。とは言っても、3月に地震が起きて4月に入社し6月に配属だったので、その時点では原発事故の被害もある程度分かってきていて、地震発生直後に比べればすこし事態が落ち着いてきたなかで取材を始められたと思います。ぼくも茨城の原発周辺に取材に行ったりしました。やはり、当時の誌面を見ると半年ぐらいは原発関連の記事が巻頭あたりにある状況が続いていましたね。こう言うのもなんですが、その時期は売上もかなり良くなっていた記憶があります。
――「週刊現代」では加計学園問題に関するスクープを担当したこともあったと聞きました。
臼杵:スクープだと胸を張れるほど話題にはならなかったのですが、2017年夏に「現代ビジネス」に異動する直前にやっていたのが加計学園関連の取材の仕事でした。森友学園の問題が先に話題になり、加計学園のほうはまだ前面には出てきていなかったわりと早い段階で記事にできました。もちろん記者の方々と組んで取材しているので、ぼくひとりの仕事というわけではありませんが。
――入社が2011年という話に戻ると、その前の2009年に講談社の「月刊現代」が休刊していますよね。ノンフィクションやジャーナリズムの売上が厳しい時代に入社したということでもあると思います。
臼杵:やはり当時から「今後メディアはどうすればよいのか」という議論はありましたね。講談社では、「月刊現代」がなくなったのとほぼ入れ替わりでウェブメディアの「現代ビジネス」ができました。いまはスローニュース代表になられた瀬尾傑さんが編集長として立ち上げて、最初はほぼひとりでやっている状態でしたが、10年ほどかけて大きなニュースサイトに成長していった。その種がまかれはじめた時期ではあったかなと思います。
ただ、この話にはまたあとで戻ってくると思うのですが、ジャーナリズムのメディア経営が厳しいという状況自体はずっと変わりません。仕事で海外のメディア博覧会に行って向こうのメディア人と話をしたこともありますが、世界中どこの国を見てもジャーナリズム一本で成功しているメディアはほとんどない。ある種のカンパで経営を維持していたり、あるいは別の事業を収益の柱にしたりしているところも多いようです。たとえば「ニューヨーク・タイムズ」がレシピとクロスワードで有料購読者数を増やしたというのも有名な話です。
「週刊現代」のリニューアルが目指すもの
――それでは、取材の本題である「週刊現代」のリニューアルについてお聞きします。リニューアルは2024年末に行われ、それに伴い2025年3月から隔週刊行になりました。どのような変更がありましたか。
臼杵:リニューアル自体は前編集長時代のことで、わかりやすいところで言えば、女性の水着やヌードのグラビアが完全になくなりました。表紙のデザインも変えました。
――あらためて、リニューアルの狙いはどんなものだったのでしょう。
臼杵:読者層の拡大です。出版業界全体でも読者が高齢化してきていますが、なかでも週刊誌はそれが進んでいて、それまでの「週刊現代」はほぼ70代以上の男性向けの誌面になっていました。わかりやすく言えば、ヒット企画だった「死ぬまでセックス」であったり、医療や相続の話であったりが前面に出ていた。まずはその読者層をもっと下の年代にも伸ばして、まだ現役世代で働いているベテランのビジネスマンなどにも広げていきたいという狙いがあったと思います。前編集長時代には、ぼくも「アメリカの最新AI開発事情」といったような記事を現場で担当していました。
――隔週刊行になったことはどのような変化につながりましたか。
臼杵:隔週化にともなって長い特集記事を組むようになりました。週刊誌の特集は基本単位が3~5ページであることが多く、リニューアル前の「週刊現代」もそうでした。そこから10~20ページぐらいの大特集を看板としておくかたちになった。ほかにも、取材や記事内容の検証にもっと時間がかけられるようになったというメリットもあります。
――臼杵さんが編集長に就任してから変えたことはありますか。
臼杵:外から見るとすこし分かりづらい小さな変化なのですが、まず取材記事や、書き手の名前を出したルポルタージュの本数を増やしました。それとこれから力を入れていきたいこととして、もっと女性読者にもリーチできる誌面を作りたい。そこはリニューアル時に水着グラビアをやめたことともつながっていて、従来の「女性が手に取りづらい雑誌」というイメージを変えていきたいと思っています。
これからの「週刊現代」のイメージは、「家族みんなで回し読みできる雑誌」と言ってもいいかもしれません。誌面のこのあたりは50代で会社員をやっているお父さんが読むと面白い、ここは奥さんが読むかもしれない、ここは70代以上のシニア世代が興味を持つ、場合によってはここは20~30代の若いひとが読んでくれても面白い、という具合です。世代や属性の分断が進み、「雑誌は特定の読者向けに尖らせないと売れない」と言われるなかで、無謀な目標だということは承知のうえですが。
――なるほど。臼杵さんが編集長に就任してからの号で、この記事は女性向けだと言えるものはありますか。
臼杵:明確に女性向けというわけではありませんが、すこし意識したものとして2026年1月5日号の「2025年 私のベストブック」「2025年 最高のドラマ・映画を決めよう」があります。若い識者やインフルエンサーの方々も含めた豪華なメンツに選定してもらって、かつ配信限定のドラマも面白いものがあれば紹介してもらう方針にしました。これまでは往年の名作やNHK大河ドラマなどを取り上げる、シニア層を意識した記事が主体だったので、基本的に昭和の芸能や映画に詳しい識者にコメントや選定をお願いすることが多かったのですが、それだけでなく女性やBLに詳しい方などにも出ていただこうと。
――いまのところ、リニューアル後の手応えはどうでしょう。
臼杵:残念ながらセールスが伸びているわけではありません。短期的に売上を作ることだけを考えれば、いままでご愛顧くださった読者の皆さんが読みたいものに忠実な誌面を作ったほうがおそらくいい。でも、雑誌としても講談社全体としても、それ以上のことをやりたくてリニューアルにつながった面があるので、これからですね。
数値でない部分では現時点でもある程度反響をいただいています。「『週刊現代』、いい感じになったね」というリアクションは個別にはいただきますし、昨年末にぼくがXに投稿した「『週刊現代』はリニューアルしました」というポストにも好意的なご意見が多かった。「週刊現代」は1959年創刊で、もうすぐ70周年という歴史のある雑誌です。なので、社内の他のみなさんがどう思っているかはわかりませんが、編集部としては会社の看板のひとつとして「講談社ってこういうことを考えてるんだ」「こういう世間との向き合い方をしてるんだ」というブランディングを担っている部分があると思ってやっています。
――臼杵さんのポストでは、「いま出版社の媒体に求められているのは、スリルよりも信頼」という文言もありました。短期的ではなく中長期的なものを見ているということですよね。
臼杵:そのとおりです。直近で言うと、かなり早い段階でやった昨年12月の衆院選当選予測記事がわかりやすいと思います。その後、中道改革連合の結党で状況が大きく変わってしまいましたが、そのときの結論はざっくり言うと「自民党がやや勝ちます」という地味なものだったんです。週刊誌として記事を面白くしようとしたら「大勝」か「大敗」の見出しで作るほうが「正解」です。でも、いまの時代にそれはもう違うかなと。タイトルのインパクト勝負の記事作りを続けていると、オオカミ少年のようになって結局信用してもらえなくなる。週刊誌や見出しで釣るタイプのウェブメディアは半分その状態に陥っている部分があるように感じます。なかにはそういう記事もあってもいいかもしれませんが、そればかりになってしまうと、最終的にはやはり失うものの方が多いのではないかと考えています。
「週刊現代」と週刊誌の未来
――ウェブメディアの話も出ましたが、「週刊現代」の記事は「現代ビジネス」でも配信されるパターンもあると思います。紙とネットの関係についてはどう考えていますか。
臼杵:じつはそこの相互作用も意識して誌面作りに反映しています。「切り口がちょっとネットっぽくなったね」と言われることもある。ぼく自身ウェブメディア専属の編集者をやっていた時期もあるので、ネットでウケる内容と紙でウケる内容は同じ部分もあれば違う部分もあると分かったうえで、それをいまの誌面に活かしています。ときには、「この記事はもしかしたら紙で買ってくれる読者はあまり面白いと思わないかもしれないけど、ネットだったら反響がありそう」という企画を混ぜてみることもあります。
ウェブ戦略については、なぜぼくがスポークスマンとしてXなどでの発信を積極的にやろうとしているかにもつながります。これまでの「週刊現代」は高齢読者にフォーカスしていたこともあって、ウェブ上での露出がまったくと言っていいほどない状態が続いていました。でも、やはりそれだと読者が広がっていかないので、そこを変えていきたい。
――恥ずかしながら、私も年末にXで臼杵さんのポストが回ってきたのを見て「週刊現代」がリニューアルしていたことを知りました。
臼杵:そういうひとも多いと思います。そもそも、週刊誌はネットでどうPRをするのか自体も難しいんですよね。記事の内容によっては裁判になったり、個人的な恨みを買ったりすることもあるので、こうやって編集長が顔と名前を出してメディアに出ることにもリスクがある。その点、これは賭けでもあります。
ほかにも、さきほど言ったインフルエンサーとして活躍されている方々に登場いただくのもウェブ戦略の一環という面もあります。やはり誌面に出てくださった方がSNSで宣伝してくれるととても助かりますし、実際そうやって読者は広がっていくものだと思います。
――ウェブでの広がりという点で、これまで手応えがあったものはありますか。
臼杵:最近だと、26年2月2日号の「シン・芸能界 これが『新たな地図』」という記事で新世代の芸能事務所の台頭について扱ったのですが、そこに掲載した勢力図の画像をだれかがXで転載したポストがバズっていました。でも、問題はだれもこれが「週刊現代」発の画像だと気づいていないことで、その状態を変えていきたいですね。逆に言えば、コンテンツそのものは、いままでもじつはネット上でみんなが知らず知らずのうちに見ていたりするので、「これは『週刊現代』発なんだよ」ということをうまくアピールしてウェブ上での存在感を高めていきたいです。
――いろいろな角度からいまの「週刊現代」が目指しているものが見えてくるお話でした。最後に、出版業界全体やジャーナリズムの今後について、そしてそのなかでの週刊誌の存在意義について、どうお考えでしょうか。
臼杵:あくまで極論ですが、たとえば講談社の収益を最大化することだけを考えるのであれば、社員全員がマンガの仕事に携わるのが最適解だということになります。正直に言えば、「もう週刊誌やジャーナリズムは続けなくていいんじゃないの?」という意見だって社内にはある。ビジネス的にはむしろ当然の意見で、そういう議論がなされること自体は健全です。
でも講談社には、「われわれはほぼすべてのジャンルの本や雑誌が作れる総合出版社であり、そのための人的なリソースやノウハウがある状態を保ち続けるべきだ」というポリシーがあります。たとえばいまインタビューを受けているのはまさに衆院総選挙の期間中ですが、そのときに「この選挙はどう捉えればいいのか」ということを考えたり取材したりする部署が社内のどこかに必ずあるのが講談社らしさだと。そのポートフォリオがあることで、たとえばマンガを作るときにもノンフィクションの知識を反映することができたり、その逆の流れもまたあり得て、それを会社としての強みにしている。
ひるがえってもうすこしマクロな話をすると、週刊誌はうちだけでなくどこも厳しい状況です。だいたい赤字か、良くてもトントンかなという状態でやっています。それでも週刊誌が存在し続けているのは、「こういうメディアがあったほうがいいよね」と思ってくれる読者が一定数いるからだと捉えています。選挙についても、たとえば大手新聞がどーんと予測を出すと、全国にいる何百万人という購読者に届くし、もちろんそちらのほうが影響力が大きい。だけど、それぞれの新聞でも予測に違いはあるし、そこに各社の週刊誌も加わることで、比較検証をさらに深めることができる。
それに、世の中には「週刊誌はウソを書いている」と言うような向きもありますが、決してそうではないという思いもあります。週刊誌関係者は「まあ、たかが週刊誌だからね」と自虐や韜晦を込めた言い方をするところがありますし、外からもそう見られている。でも、じつは多くの場合はちゃんと取材して記事を作っているし、情報の検証もしていて、そのうえでくだけた見せ方や、新聞とは違った視点を提供することをアイデンティティにしているんです。いろんな意見があるのは当然ですが、ぼく個人としては週刊誌ならではの存在意義を信じて、これからも頑張っていきたいです。