【漫画】定食屋のランチメニュー、美味しいけど埋もれがちなのは? 『くちべた食堂』で描かれる料理があたたかい

 行きつけの定食屋で何気なく頼んだおにぎり定食。美味しそうなおにぎりを頬張ると、なぜか懐かしさを感じて……。

 定食屋での食事が過去とリンクするあたたかい漫画がXにアップされた。本作は、漫画家・梵辛(@sokusekimaou)氏が連載する『くちべた食堂』のなかの物語だ。

 今回は本作に登場する食べ物やこだわりについて、梵辛氏に話を聞いた。(青木圭介)

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『くちべた食堂』(梵辛)

ーー本作を創作した経緯を教えてください。

梵辛:『くちべた食堂』は、初対面の人の前では緊張してあまり上手く話せない店員さんとお客さんの2人が、少しずつ仲良くなっていく物語です。本話はその作品の第73話として描いたモノです。

ーー食堂で食べたおにぎりが山での思い出に繋がる物語が魅力的でした。

梵辛:本作の連載を開始した当初、ただお昼ご飯を食べるだけの作品なので、すごく起伏のあるストーリーがあるわけではないという課題がありました。なので単行本第2巻に収録されている物語を描いていたあたりで、2人を中心にストーリーを入れ、そこにメインテーマとして「季節感」をプラスしようと思ったんです。本話は秋を意識して制作しています。秋は紅葉や山登りなどのイメージがあるので、ロケーションに合っているおにぎりと組み合わせて物語を組み立てました。

ーー作品全体を通して、登場する食べ物は状況との組み合わせで考えているのでしょうか?

梵辛:そうですね。登場する食べ物や状況なんかは、季節ごとに思い浮かぶ単語を箇条書きするところから始めて決めています。それらの単語や食べ物を見ながら、物語として面白くなりそうな組み合わせを選んでいる感じです。

 本話でいうと、おにぎりという食べ物を使いたいなという構想は連載初期からありました。でも、ただ食堂でおにぎりを食べてもあまり面白みがないなと思って、使っていなかったんです。その後、山での物語を描くとなって、ただお弁当箱に入った白米を食べても面白くない。そこであれば、ありふれた食べ物であるおにぎりを、特別感とともに魅力的に描けると思いました。「秋」という季節に合わせて描く「山」という場所に、「おにぎり」はすごくマッチすると思ったんです。

ーー梵辛氏が食べ物が登場する漫画を描くうえで、こだわっていることはありますか?

梵辛:あまり変わった料理を出さずに、味が想像できる料理を登場させるようにしています。これは「私の漫画では」という前提なんですけど、作品内でご飯を食べた人に食レポをさせないようにしているんです。

 例えばグルメバトル漫画とかなら、世界観やノリがあるのでいいと思います。食レポを中心にしている漫画や、食べ物の知識を語るような漫画も同じです。でも、私の漫画はお客さんが食堂でご飯を食べる姿をただ描いているので、食レポは不自然だと思うんです。1人でご飯を食べているときに、脳内で感想を語らないじゃないですか。また本作はSNSでの発表が主なので1話ごとのページ数が短くて、食レポをしていると肝心の物語が入らないという事情もあります。食レポがなくても食べ物を魅力的に思ってもらえるように、馴染みのある料理を中心に出すのは心がけていますね。

ーー本話のなかで、梵辛氏自身が気に入っているポイントは?

梵辛:山での出来事を描くなかで、分けてもらったおにぎり弁当をリンが食べ始めるシーンが気に入っています。ありがたそうに食べるリンもそうですし、おにぎりを食べるリンを慈愛に満ちた目で見る未来の店員さんの表情も好きです。「この子本当にいい子なんだなぁ」というのが伝わっていれば嬉しいです。

ーー梵辛氏が漫画を描き始めたきっかけを教えてください。

梵辛:小さい頃から絵を描くのは好きで、3歳くらいの頃から好きなアニメの絵とかを描いていました。中学生になってからも『新世紀エヴァンゲリオン』のファンアートや二次創作を描いていて、そのままの流れで大人になってからも漫画を描いていましたね。ただ元々プロとして活動する気はなくて、一度は普通に就職もしたんです。でも同人誌制作の活動をするなかで商業誌の編集さんから「こんな仕事してみませんか?」と声をかけていただくことがあって、そのままの流れでありがたいことに商業連載までさせてもらっている感じです。

ーー最後に、今後の展望を教えてください。

梵辛:本作に関して言うと、現在発表されている最新の内容で、ちょうど季節が1周分したくらいなんです。構想はまだ先の先まであるので、益々作品を盛り上げながらラストまでしっかり描きたいというのが、当面の目標ですね。

 ただ、漫画以外にも広く活動したいと思っていて、今もラジオの配信をしたりイラストを描いたりしながら、活躍するために頑張っています。わかりやすく言うと「インフルエンサー」のような感じで、枠にとらわれずに活動していきたいです!

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