【漫画】高尾山でも怪奇現象は起こる……? 日常のすぐそばにあるホラー『山人が語る不思議な話 山怪朱』にゾッとする
日常に起こる“怪異”――。山に生きる人々が遭遇した奇妙で不思議な体験を描く漫画『山人が語る不思議な話 山怪朱』は田中康弘氏による同名ルポルタージュのコミカライズだ。
Xでも数話が投稿されている本作で、作画を務めたのは『まどか26歳、研修医やってます!』などで知られる水谷緑さん(@mizutanimidori)。得意とする医療系エッセイとはまったく異なる作品を、彼女はどのように描いているのか。(小池直也)
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――Xに投稿した反響はいかがでしたか。
水谷緑(以下、水谷):東京の人にとって身近な山だからか、高尾山の話がリポストなどが多かったです。
――こちらは田中康弘さんの原作をコミカライズした作品ですが、実際に読んでみた感想は?
水谷:ホラーという感じではなく、民俗学みたいな作品だなと感じました。怖がらせようとしていない淡々とした質感、それでいて無駄がなくてゾクッとするような。取材した猟師さんの話が面白かったりすると、私はどうしても背景などを描きたくなってしまうのですが、田中さんは必要最低限しか入れないんです。徹底して演出しすぎない、無駄な情報は入れないという部分も他の本と違うなと。
あとは単純に2、300人の猟師やマタギの人にインタビューする胆力、エネルギーがすごい。
――その作品をどのように漫画に落とし込んでるのでしょう。
水谷:本を読んでネーム(下書き)を描くんですけど、活字だとディテールがないので、山の地形などの細かい部分は田中さんに聞いて進めています。田中さんに紹介してもらった猟師さんとかに取材させてもらうこともありました。あまり怖がってなくて慣れてる感じなんですよ。「山ってそういうものがいる場所だから」と。だから私も日常の延長にある不思議さを漫画にしたいと考えていました。
――田中さんの方から「こう描いてほしい」といったことがあったりは?
水谷:特にはないですね。かなり自由にやらせてもらっています。あまりに何も言われないので、逆に心配になって聞くんですよ。そういうときも「面白いです」で終わりなんですど(笑)。
――都市に住んでいると理路整然としたことばかりなので、こういう不思議なことに遭遇することが少ない気がします。
水谷:よくわからないものに対する敬意のようなものを感じますね。皆さん、山に入るときも「山の神様」と呼んでいる石像に挨拶するみたいですし、お守りも持ち歩いているみたいです。都会だと怖いことがあっても「気のせい」で片付けると思うんですけど、タヌキとか狐、「カリコボーズ」など各地の神さまのせいにして受け流すんですよね。深く考えてもわからないから、スルーするのも具体的。
――「わからない」ということが怖い現代とは正反対な考え方かもしれません。
水谷:理解不能だけど、そこで生きて行かないといけないからこそ、知恵として何かのせいにするのだと思います。
――水谷さん自身は不思議な経験をされたことはありますか。
水谷:八王子城跡は怖かったですね。後ろの方でラジオのような「あー」という声がずっと聴こえてました……。
――水谷さんは医療系のコミックやエッセイを多く手掛けられてきましたが、本作はまったく違う方向性となっています。それについては?
水谷:長いこと精神科の漫画を描いていて、そろそろ全然違うことをやりたいなと思っていたときに担当編集の方がホラーを提案してくれたんです。自分のイメージになさすぎましたが、それが逆に面白いなと。
もともと小学生から中学生くらいのとき、山岸凉子さんの『ゆうれい談』が好きで、その真似をして友達の怖い話を漫画にしたりもしていたんですよ。そんな過去も思い出しましたね。
――なるほど。
水谷:あと拝み屋や沖縄のユタなどで話を聞いてもらう人の話を聞いていると、精神科医のやっていることと似ているなとも感じました。よくわからない話に対して何となくの回答をしてくれるような存在というか。霊的なものも心の病も解明されてないものなので、そこは共通しているのかなと。
――最後に今後の展望について教えてください。
水谷:もともと怖がりなんですけど、描いているうちに「どうやったら怖がらせられるか」と考えるようになったんです。おかげで自分が体験したエッセイ漫画を描くことにもなりました(笑)。ホラー的な表現は他ジャンルの漫画でも活きるなと『被害者姫』を描いていて感じたので、今後も追及しながら連載していけたらと思っています。
©️田中康弘・水谷緑/小学館