『チェンソーマン』レゼはなぜ魅力的? かわいいだけでは済まない“沼が深すぎる”ヒロイン像に迫る
※本稿は『チェンソーマン レゼ篇』のネタバレを含みます。
週末観客動員ランキングで3週連続1位を獲得するなど、破竹の勢いを記録している劇場アニメ『チェンソーマン レゼ篇』。同作を観た人が口々に語っているのが、物語上のヒロインにあたるレゼの魅力だ。
なぜファンたちは、このミステリアスな少女の虜になっているのか……。今回はその人気の理由について分析していきたい。なお記事内では物語の核心的な部分についても触れるため、ネタバレには注意してほしい。
レゼは雨宿りしている主人公・デンジの前に突如現れ、その心を奪っていくという役どころ。元々マキマに強い憧れを抱き、一途に生きようとしていたデンジだったが、この出会いをきっかけとして思わぬ運命に巻き込まれてしまう。
「俺は俺の事を好きな人が好きだ」という名言に象徴されるように、デンジは自分が好意を向けられていると感じたことで、レゼに夢中になっていく。やたらと距離感が近く、しきりにボディタッチしてくる上、冗談を言えば明るい笑顔を見せてくれる……。デビルハンターになる前のデンジは「汚ぇ」「臭ぇ」と言われて女性に近寄られることすらなかったと語っていたので、レゼの振る舞いに衝撃を受けたことは間違いないだろう。
またデンジにとっては、レゼが対等の目線で付き合える“普通の女の子”だったことも大きな意味を持っていたはず。というのもそれまでデンジが関わってきた女性は、交換条件で何かを恵んでくれる間柄だった。猫を助けてくれたら胸を揉ませるというパワー、姫野を倒したらキスをしてあげるという姫野、銃の悪魔を殺せたら願い事をなんでも叶えるというマキマ……といった具合だ。
すなわちデンジにとってレゼは無条件で自分にやさしくしてくれる初めての相手であり、“普通の幸せ”を教わる初めての機会だったのではないだろうか。
とはいえ、ここまではあくまでデンジ目線の話。読者目線で考えると、レゼというキャラクターの魅力がもっと別の角度から見えてくる。そこでカギとなるのは、人格の多面性だ。
レゼでもボムでもない“もう1人の少女”の存在
デンジと出会った当初、レゼは明るくて純粋な“等身大の女の子”を演じていたが、夜の学校で忍び込んだ際にその本性が明らかに。猟奇殺人鬼の男に襲われて逃げ惑うかと思えば、表情一つ変えずに返り討ちにする強さを見せる。そして夏祭りの夜には、冷酷な微笑みを浮かべながらデンジの心臓を奪おうとするのだった。
また夜の学校では、プールのなかでデンジに泳ぎ方をレクチャーする場面があり、「私が全部教えてあげる」と怪しい微笑みを浮かべていた。これは作者の藤本タツキが好んで描く“自分のすべてを支配しようとしてくる女性”のイメージに近いように見える。
普通の女の子にして冷酷な刺客、そしてミステリアスなファム・ファタール……。色々な仮面をかぶるようにキャラクター性が変化していき、どこまでも実体を掴めないという性質こそが、レゼの魅力ではないだろうか。
アニメ版では、丁寧な日常シーンの作画によってこうしたレゼの多面性を表現。そして声優・上田麗奈がその繊細な声色と演じ分けによって、“魔性の魅力”を幾重にも増幅させていた。
さらにレゼの最大の魅力となっているのが、いくつもの仮面の合間から垣間見えてくる“本当の素顔”の存在だ。デンジを騙そうとする無垢な少女・レゼとソ連の工作員であるボムの後ろには、ほとんど表に出てこないもう1つの人格がある。そしてその人格は、一緒に地獄のような世界から逃げだしてくれる相手を求めている……。
こうしたキャラクター性の深みを、上田は正確に理解して演じていたようだ。9月20日に開催された公開記念舞台挨拶では、レゼでもボムでもない“3人目の彼女”を意識して演じたことを明かしていた。
ちなみに米津玄師が手がけたエンディング・テーマ「JANE DOE」の宇多田ヒカルパートで歌われているのも、この3人目の存在だと思われる。
たんなる「かわいいヒロイン」にとどまらず、深みのある人物として描き出されているレゼ。だからこそ観客たちのなかで、深い沼に沈んでいく人が続出しているのではないだろうか。原作やアニメスタッフ、声優が作り上げた奇跡の産物を、劇場で見届けてほしい。