【漫画】“蜘蛛男”彼氏との恋はどうなる? 怪異カップルの甘酸っぱい物語『シにかけ少女と蜘蛛王子』

 大好きでしょうがない彼氏が、もし蜘蛛男だったらどうするか? そんな普通なら起こり得ない障壁が生まれるのが、“怪異カップルもの”の魅力だろう。今回紹介するのは、蜘蛛男×人間の彼女という組み合わせのラブコメ作品『シにかけ少女と蜘蛛王子』だ。

 人気作品『虫籠のカガステル』の作者である橋本花鳥さん(@torinikusoul)が、ひと夏のショート作品として制作した本作。(夏に終えることができず、現在は延長戦に入っている。今後もハロウィンなど描いていく予定とのこと)本記事では橋本さんにSNSでの映えを狙った戦略や、背景について聞いた。(はるまきもえ)

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『シにかけ少女と蜘蛛王子』(橋本花鳥)

初挑戦となったラブコメ作品

ーー『シにかけ少女と蜘蛛王子』をXに投稿した際、反応はどうでしたか?

橋本花鳥(以下、橋本):7月の後半に初めてXに投稿したのですが、そこでかなり反響をいただいて、6000人ほどのフォロワーさんがひと晩で4倍くらいに増えました。バズってくれたら嬉しいなと思っていたのですが、まさかここまで反響をいただけると思っていなかったので、嬉しいです!

ーー本作は、「蜘蛛男」と「人間の女の子」という怪異カップルになりますが、2人のキャラクターについて教えてください。

橋本:最初の設定では、人間の彼女である七河ネハンは、あまり生きる気力がないダウナーな感じの子にしていたんです。そこで彼氏の蜘蛛男・八ツ塚イトもダウナーにしてしまうとさすがに暗くて見ていられないので、もう少しライトに読めるように性格のバランスを考えました。

ーー彼女の暴走気味な性格に、怪異側の彼氏が押されているのがコミカルですよね。

橋本:漫画は、目的意識の強いキャラクターがいた方が読みやすいと思っていて。八ツ塚くんは表面上おとなしい性格なので、彼女が彼を異常に好きで、そこがもうコミカルになってしまうぐらい強めにアプローチするようにしました。

ーー橋本先生にとって、本作がラブコメ初挑戦になるのでしょうか?

橋本:そうなんです! 私は恋愛ものでよくある三角関係とか当て馬とか、そういうのがすごく苦手で避けていたんです。でも最近は『その着せ替え人形は恋をする』など、“完全にカップリングが固定されている”作品だと、ラブコメでも安心して読めることに気づいて。実際に描いてみたら、「ラブコメってこんなに楽しいものだったのか!」と驚きました(笑)。

SNSを意識した背景

ーー本作はXでかなり話題になっていましたが、SNSは意識されて作ったのでしょうか?

橋本:以前、作品が打ち切りになってしまったことがあって。そのとき読者の方に「せっかく読んだのに……」という思いをさせてしまったことがあるんです。だからこそ、次の作品では同じことを繰り返してはいけないと強く思いました。SNSでまず人気を付けよう、“バズるにはどうしたらいいか”を研究しようと思ったんです。

ーーでは、本作は実験的な挑戦でもあったんですね。

橋本:そうなんです。ありがたいことに1回目でたくさんの反響をいただけて本当に良かったですし、勉強になりました。

ーー具体的にはどんなことを意識されたのでしょうか?

橋本:たとえば構成だと、物語の説明や設定の前に「ここが楽しいポイントだよ」というのをポンと見せて、面白さを保証しておくことですね。Xの漫画でいうと、0ページ目がまさにそれだと思っていて。今回の0ページ目も、怪異ラブコメで1番リーチが増やせるのは、やはりここかなと。2人の構図も、立ち絵なのか自販機の前なのかなどいろいろ考えたのですが、彼女の顔が見えて、できるだけ水が派手に飛んでいる方がいいと思って、結果この1枚絵になりました。

ーーこの1枚で、2人の性格とパワーバランスがひと目でわかりますよね。

橋本:あと物語全体でいうと、本筋のサイドストーリーを描くことを意識しました。本当は2人がどうして付き合うようになったのか、どうして彼女が死にかけたのかという物語の本来の順番があるんですけど、SNSにおいてはそこは読者の方が想像しながら楽しんでいただけるかなと。

ーーなるほど。それが本作の全体的なポップさというか、見やすさにつながるのかもしれないですね。

橋本:魅せ方でいうと、情報量が多いとスマホで読むのがキツくなるので文字数もかなり抑えました。絵柄に関してはラフな雰囲気に見えるようにクリップスタジオで作品イメージに近いペンを探して、いつも商業で使うGペン(漫画家がよくつかうポピュラーなペン先)ライクな本格的ものから、もっとラフな線を目指して作成しました。できるだけ身近に感じられる空気感も出せたんじゃないかなと思っています。(本当はめちゃくちゃ一生懸命描いているんですけど)

 線の太さが安定しないので描き心地に慣れるのに苦労しましたが、身近な絵に感じられるのかなと。キッチリした線だと読み手が押し付けられるように感じるところもあるんですけど、柔らかい雰囲気が出せたと思っています。

ーーいろんな角度から、魅せ方をかなり研究されたんですね。

橋本:SNSは、ぱっと見の印象がものすごく大事だということに気づいたので、アプローチの仕方はかなり考えました。私はいままでファンタジーの長い作品を描く傾向にあったんですけど、読ませようという気持ちが強すぎて、魅せようという意識が足りていなかったんだなということを痛感しました。でも今回学んだことは、SNSに限った話でもないと思っていて。漫画の技術として早い段階で作品の面白さを知ってもらうという方法は、エンタメすべてに共通することなのかなと感じました。

ーー最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

橋本:今回は担当の編集さんもいなく、ひとりぼっちで試行錯誤しながら挑戦した作品です。なので、読者の方に直接届いた喜びをまた感じさせていただいて、本当に感謝しています。これからもちゃんと読者の方に届けていけるように大事にしたいので、ぜひ見てあげてください!

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