モモンガだって不倫する? 動物の「性」と「生」を描く衝撃作『あなたも私も動物だから―不倫の森―』
Webマンガサイト『くらげバンチ』の注目作である『あなたも私も動物だから―不倫の森―』(新潮社)。
草食動物だけが暮らす平和の森を舞台に、夫と子に恵まれながらも飼いならされた日常に閉塞感を覚えるモモンガのモモヨが、運命の出会いをきっかけに「動物的本能」に目覚めていく姿を描く。可愛らしいキャラクター造形と、生々しい欲望や迷いといった人間臭さとのギャップが強烈な印象を残す作品だ。
物語の冒頭から、読者は「草食動物の社会」という寓話的な舞台設定に引き込まれる。外見は小さく愛らしいモモンガでありながら、モモヨは「良き妻・良き母」として振る舞うことに疲弊し、心の奥で“もっと自由に生きたい”という欲望を募らせていく。その姿は動物でありながら、現代社会に生きる人間のリアルな閉塞感や葛藤を映し出す鏡でもある。特に、家族を持ちながらも「自分の生」を見失いかけるモモヨの姿は、読む者に痛みを伴う共感を呼ぶだろう。
原作を手がける宮川サトシは、『母を亡くした時僕は遺骨を食べたいと思った。』『宇宙戦艦ティラミス』など、社会性や人間の本音をユーモアと悲哀の両面から切り取ってきた作家。本作でもその手腕は健在で、寓話的な設定を借りながらも、私たちが日常で目を逸らしがちな「不倫」や「本能」というテーマを鮮烈に可視化している。
宮川氏は本作品に対しての取材に対して「僕が趣味でしたためていた『寝取られモモンガ川柳』という、森に棲むモモンガたちによる悲哀と本能をテーマにした川柳がベースになっています。それが、まさか漫画作品として日の目を浴びることになろうとは」とコメント。また、作画を担当した栗原陽平氏に対して「超絶画力の栗原先生」と絶賛を送りつつ「一緒に頑張りますのでどうぞよろしくお願いします」と意気込みを語った。
一方作画の栗原陽平氏は映画『37セカンズ』のコミカライズを通して培った繊細な心理描写に定評がある。森の光や影、登場動物たちの微細な表情の変化を丹念に描き込み、物語の緊張感を一層高めている存在となっている。
「以前から宮川さんと一緒に漫画描けたらいいなぁ」と話していたとコメント。そして「まずは描けるような作家にならないと! と担当さんにずっと話をしていたんですが、まさか実現出来るなんてビックリし、嬉しさのあまり街中でぴょんぴょん跳ねたのを覚えております」と率直に喜びを語ってくれた。そして「これから宮川先生と一緒に頑張っていきますので、お楽しみ下さい!」と宮川氏と同じように抱負を語った。
本作の特筆すべきは「動物キャラクターが抱える人間的問題」をここまで真正面から描いた点だ。草食動物という“弱さ”や“従順さ”のイメージをまとった存在に不倫や欲望を投影することで、作品は一種の寓話を超えて、倫理観や幸福観を根底から問い直す挑発性を持つ。読者は「モモンガが不倫する」という一見ユーモラスな設定に笑いながらも、その奥に潜むリアリティに驚かされるに違いない。
また、絵柄の柔らかさとテーマの苛烈さとの落差も大きな魅力である。まるで絵本のような森の情景の中で展開する愛憎劇は、時に残酷で、時に切ない。そのギャップが読む者の心をえぐり、ページをめくる手を止めさせない。物語が進むにつれ、モモヨの選択は彼女だけでなく周囲の動物たちの関係性を揺るがしていき、読者は「果たして幸福とは何か」「家族とは何か」という根源的な問いへと誘われる。
本作は単なる“不倫マンガ”ではなく、「本能」と「理性」、「社会」と「個」の間で揺れる存在としての人間=動物を描き出す寓話的作品だ。軽妙な笑いと、鋭い風刺、そして痛切な共感が同居する本作は、今後さらに話題を呼ぶだろう。モモヨの物語がどこへ向かうのか、今後の展開に注目したい。