【漫画】学校をサボって知らない土地へ、出会ったイケメンとーー爽やか青春漫画『知らない駅に降りてみた話』

世界が広がる物語に

――今回『通学電車での小さな冒険』を制作した経緯は?

湊月:ちょうど商業の連載が終わった時期で「何かを描いていないと落ち着かない」という気持ちに駆られて考えた作品でした。

――「知らない駅に降りてみる」という一度は誰もがやってみたいと考える行動から始まる夏の物語でしたね。

湊月:自分の高校生時代の毎朝の通学時間に感じていたことから着想を得ました。電車の穏やかな揺れや車窓に差し込む陽の光、初夏で冷房が心地よく効いている電車内で、「このまま揺られていたいなあ」と、当時はそんなのんきなことを考えていたんです。海の見える駅にしたのは「一度は訪れてみたい」という憧れがあったからです。

――似たような理由でふらっとしている男の子が途中から登場しましたが、ストーリーはどのように組み立てましたか?

湊月:“私の世界が広がった話”みたいな物語にしたかったのですが、初めはなかなか落としどころが見つからず苦労しました……。そこで「普段通りの生活をしていたら、絶対にありえない出会いがあってもいいのでは?」と思い、主人公とは考え方が真逆そうなあの男の子を登場させました。

――そんな2人が誕生した背景を教えてください。

湊月:構想時にふんわりと浮かんでいた姿を描き出し、画面のメリハリをつけるため「1人は黒髪にしよう」と決めていました。また、モデルはいないのですが、キャラの性格は私自身の一部を少し投影させていることが多いです。冒頭の女の子の「このまま揺られていたらどんな世界が広がっているんだろう」は、自分が高校生で電車通学をしていた当時に思ったままの言葉でした。

キャラクターに名前をつけなかった理由

――なぜ2人の男女には名前をつけなかったのですか?

湊月:とある漫画の編集者さんがSNSで「漫画は面白ければ究極キャラの名前が決まっていなくても成立する」というような投稿をしていたのを見て、「一度挑戦してみよう」と思って付けませんでした。あと、これは後づけですが、「どこにでもいそうなこの子たちの名前が決まっていないからこそ、読者とキャラの心の距離が近くなり、感情移入してもらいやすくなるかも?」という淡い期待を抱いたのも理由としてあるかもしれません。

――女の子の表情が展開ごとに変わっていくことも印象深い内容でした。

湊月:教室の隅で静かに授業を聞いているような真面目な子なので、「きっと普段もあまり寄り道をしない人なのだろう」と考えました。「未知の世界に足を踏み入れた時にどんな表情を見せるか」と想像しながら描いていたら、自然と目を輝かせる表情になっていました。中盤の落ち込んでいる時の表情は「ああ、何やってんだろうな自分」といった顔が描けたらいいなと思いながら描いていました。

――一方、男の子の表情を描くうえで意識したことは?

湊月:「最初は少し気だるそうな印象に見せて実は…」みたいなギャップを意識しました。意外と無邪気に笑い、時には少しいたずらっぽい笑みを見せるなど、あまり深く悩まず流れに身を任せる余裕がありそうな表情を目指しました。

――“夏感”が満載の背景も爽快感を与えてくれました。

湊月:背景はその景色の空気感を伝えられるように描きました。夏の暑くも爽やかな雰囲気が好きなので、「作中でも表現できたらいいな」と考えていました。また、主人公の心情にも合わせて、明るい気持ちの時はキラキラした表現で、暗い気持ちの時は少し影を出すなどを意識しました。

――男の子が女の子を諭す時のセリフは説教っぽくなってしまうリスクもありましたが、その辺りはどのように調整しましたか?

湊月:17〜18ページの男の子の一連のセリフは決めるのに時間がかかりました。「ここで言いたいことは何だ?」と整理した結果、「そんな日があってもいいんじゃないの?」と少し寄り添ってくれる言葉がしっくり来たので、あのセリフにたどり着きました。

――今後の漫画制作における予定を教えてください。

湊月:現在新連載の準備をしています。欲を言えば、個人原稿や同人誌も時間を見つけて描きたいです。とはいえ、健康があってこその仕事なので、まずは身体に気をつけて無事に連載作品が世に出せるよう頑張ります。

■湊月氏の作品情報
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