高橋留美子『MAO』アニメ化へ 「ホームラン率100%」漫画家の偉大なる功績

「るーみっくわーるど」を彩る“半人前”の男と誇らしく軽やかな女性たち

 彼女の作品に共通するのは、ヒーローではなく“半人前”の男たちが主役であること。『めぞん一刻』の五代裕作は浪人生、『らんま1/2』の早乙女乱馬は、男と女の“半分”、犬夜叉は半妖であり、『境界のRINNE』の六道りんねは半分死神だ。彼らは不完全で、どこか情けなく、物語の中でもしばしば迷い、立ち止まり、臆病になる。だが、そんな彼らのそばには必ず強い女性たちがおり、未熟な男を笑って、叱って、許して、時に背中を押していく。男が半人前であることを前提とした優しさと、突き放さない眼差しが物語に独特の奥行きを与えているのだ。

 そして、彼女の作品が示したもうひとつの革命は、ジェンダーの描き方そのものだった。まだ漫画界もバリバリの男性社会であった70年代。台頭してきたフェミニズムはどこか戦闘的な色合いを持っていたが、その中で高橋留美子は女性が女性であることをただ「素敵なもの」として描いてみせた。媚びず、誇らしく、そして軽やかに。それにより、どれほど多くの読者の心を解放してきたかは計り知れない。それは女性だけでなく、『うる星やつら』によって、後に“オタク”と呼ばれるジャンルが誕生したことでも明白だった。

 また、自然体で存在する女性キャラによって、たとえ肌露出があったとしても、それは「エロ」ではないという“ライン”が確立されたことも大きな“功績”と言っていいかもしれない。

 「MAO」がアニメ化された際、視聴者は過去の名作の“残り香”と共にきっとこう思うのだろう。「ああ、また新しい高橋留美子が始まった」と。

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